【特 集 :廃棄物,21世紀への展望】

21世紀の社会とごみ――低エントロピー社会への道――

八 太 昭 道*

【要 旨】 本小論は,エントロピーという物理概念をツールとして,21世紀の廃棄物の未来像を描いたものである。廃棄物は,人間の社会活動と表裏一体のものだから,その未来像を描くことは,社会システムの未来像を描くことになる。ここでは今日の社会システムを,地球という系内のエントロピーを高速度で増大させている社会という意味で,高エントロピー社会と呼ぶ。そして,高エントロピー社会の骨格を,効率と便利さを追求する技術システムとプライベートセクター(企業,個人)の経済活動の自由を優先する社会システムからなると捉えている。高エントロピー社会の廃棄物処理は,社会活動にともなって発生するエントロピーを活動の場からとり出し,ローカルな環境に,そして更にグローバルな環境に捨てる事業であり,この事業そのものがエントロピーを増大させている。今日われわれが直面している課題は,エントロピーの捨場がグローバルな環境においてさえ枯渇してきていることである。廃棄物問題にどう対処するのか。リサイクルがその解決策とされるが,プライベートセクターの経済的自由を最優先する社会では根本的な解決にならない。低エントロピー社会,すなわち,人類が地球生態系と共生してゆくことを最優先して,プライベートセクターの自由を制限してゆく社会によって,はじめて廃棄物問題の根本的な解決が図られる。この社会では,すべての不用物は,生産工程に原料,資材,半製品として供給され,ここで再生産される。そしてこのことが生産者の責任で行われている。ごみ(製品廃棄物)の外部不経済が内部化されている。

キーワード: エントロピー,再生産,ごみ処理,リサイクル,地球環境

廃棄物学会誌,Vol. 2, No.1, pp.36-45, 1991

原稿受付 1990.11.26

* (株)オストランド 代表取締役