【総 説】

医療廃棄物の環境影響

白 戸 四 郎*

【要 旨】 環境に与える医療廃棄物の問題点について文献を概観し,解説を加えた。まずバイオハザードの問題では,現在針刺し事故によるB型肝炎にのみ関心が集中しているきらいがあるが,これは氷山の一角に過ぎず,研究の対象を環境汚染の見地から医療行為全般に拡大する必要があり,本稿では水系汚染への注意を提起した。次はケミカルハザードの問題で,細胞毒性薬剤とくに抗悪性腫瘍剤に焦点を当てた。欧米では十年来その安全対策に官民挙げて努力しているのに,わが国は全くの野放しに近い現状である。精製された細胞毒性薬剤が一般の廃棄物に大量に混入している実態には早急な対応が必要である。次は焼却処理の技術水準の問題である。バイオハザード,ケミカルハザードの防止のために重要な役割を担う焼却技術が現在あまりにも低水準で,かえってハザードの原因ともなり得ることを指摘した。

キーワード: 医療廃棄物,バイオハザード,ケミカルハザード,細胞毒性薬剤,焼却処理

廃棄物学会誌,Vol. 2, No.3, pp.237-252, 1991

原稿受付 1991.4.24

* 神奈川県立衛生短期大学 名誉教授,

医療廃棄物研究会 学術部長