【論  文】

定着廃液から得られる銀析出物の組成形態

石 塚 庸 三*・今 井 久 雄**

【要 旨】 X線写真用定着廃液中の銀は,ビス(チオスルファト)銀(I)酸イオンの形で溶解している。本報では,これらの廃液から銀を回収するために,過酸化水素法,電解法,銅板浸漬法により,所定条件下における析出物を得て,それらの組成形態について比較検討した。析出物は,過酸化水素法,電解法では硫化銀,銅板浸漬法では銀単体と微量の酸化銅(I)として同定された。過酸化水素法では,廃液中に存在するS2O32−および[Ag(S2O3)2]3− 量に与える過酸化水素の添加量の影響を,それぞれの析出物の組成形態(Ag/S:モル比)をもとに検討した。理論量の過酸化水素を添加して生成する析出物には,廃液中の銀がほぼ完全に含まれ,回収されることが見い出された。硫化銀を直接水素処理(300〜700℃,3h)しても銀単体は得られない。硫化銀を,硝酸溶液(1:1)ついで塩化ナトリウム溶液で処理をして得られた塩化銀からは,その融点(455℃)付近で水素処理(400℃,3h)すると,ほぼ純粋な銀の単体が回収された。

キーワード: 定着廃液,ビス(チオスルファト)銀(I)酸イオン,析出物,組成形態,水素処理

廃棄物学会論文誌,Vol. 3, No.1, pp.1-7, 1992

原稿受付 1991.5.13

* 鳥取県立米子工業高等学校 材料化学科

** 東京工業大学 工業材料研究所