揮発性有機塩素化合物を含む廃棄物の焼却に関する実験的検討
――1,1,1-トリクロロエタン,四塩化炭素の場合――
酒 井 伸 一*・嶋 津 治 希*・高 月 紘*
【要 旨】 揮発性有機塩素化合物は工業的に有用な特性を有することから大量に消費されてきたが,これらには発ガン性を有するあるいはオゾン層破壊に寄与することが確認されつつある物質がある。本研究ではこういった揮発性有機塩素化合物の一種である1,1,1-トリクロロエタン,四塩化炭素を含む液状廃棄物を適切に焼却処理するための燃焼条件を検討した。炉出口温度が950℃で平均滞留時間をパラメーターとしたフルスケールプラントにおける燃焼試験では平均滞留時間の大小(9.1秒対1.8秒)に関わらず1,1,1-トリクロロエタンの分解効率,副生成物の排出量はほぼ同じ傾向の結果となった。炉出口温度をパラメーターとしたラボスケールプラントにおける燃焼試験では高温条件(約800℃以上)において1,1,1-トリクロロエタン,四塩化炭素ともに分解効率は99.999%を超えたが,低温条件(約700℃)では分解効率は低くなり一部の副生成物で排出量が大きく増加した。また本実験で得られた分解効率を気相分解反応を律速として計算した分解効率と比較したところ1,1,1-トリクロロエタンでは非常に低くなった。これは廃棄物を噴霧供給する時に生じる液滴の蒸発速度を考慮していないためと考えられ,噴霧条件が1,1,1-トリクロロエタンの分解に影響を与える重要な因子の一つであるといえる。一方,四塩化炭素では本実験で得られた分解効率は計算値より高くなった。本実験ではLPGとともに廃棄物を供給したことから炉内が水素リッチ条件であり,このことが分解を促進させたと考えられ,廃棄物を供給する時の水素と塩素の比が四塩化炭素の分解に影響を及ぼす重要な因子の一つであるといえる。
キーワード: 1,1,1-トリクロロエタン,四塩化炭素,焼却,分解効率,副生成物
廃棄物学会論文誌,Vol. 4, No.4, pp.142-151, 1993
原稿受付 1992.12.22
* 京都大学環境保全センター
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京都大学環境保全センター 酒井 伸一