イオン交換樹脂溶解によるリン酸塩スラッジからのリン酸回収
西 野 忠*
【要 旨】 難溶性無機物質を水素型強酸性イオン交換樹脂を含む懸濁水中で攪拌すると,極微量溶出した陽イオンと樹脂との間で起こるイオン交換反応が溶質の2次的溶解を促し,最終的に難溶性無機物質はすべて溶解するに至る。本報では,鋼板化成処理で副生するスラッジの溶解とリン酸の回収を目的として行った基礎実験結果を述べる。自動車鋼板化成処理は通常,リン酸〜リン酸亜鉛を主成分とした化成浴に浸漬することで車体表面に難溶性のホパイト皮膜を形成する工程であるが,その際,主としてリン酸鉄(III)からなるスラッジが多量生成し,産業廃棄物として投棄され環境破壊につながる社会問題となっている。ここではまず,それぞれ化成皮膜,スラッジに対応するホパイト,リン酸鉄を用い室温で水素型強酸性イオン交換樹脂による溶解過程を考察した。前者では中間体に2水素リン酸塩を与える2段階の溶解が観察され,後者では中間化合物の生成を経由することなく溶解した。化成処理スラッジは後者のそれに類似して中間体を経ず溶解する。スラッジの溶解で放出されるリン酸は回収され,濃縮後,化成処理剤として再利用でき,使用樹脂も希塩酸で再生後,反復使用できる。また,再生時に生ずる金属塩化物も回収される。鉱酸など一切用いない本溶解法は操作が安全に行え装置の腐食もなく,これまでスラッジリカバリーとして提案された方法に比べより経済的な方法と考えられる。
キーワード: イオン交換樹脂,リン酸塩スラッジ,溶解,リサイクル
廃棄物学会論文誌,Vol. 5, No.5, pp.202-208, 1994
原稿受付 1994.2.9
* 武蔵工業大学 無機化学研究室
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