【特 集 :汚染修復と環境監査】

土壌汚染浄化の費用負担

大 塚   直*

【要 旨】 今日,市街地の土壌汚染の浄化は極めて重要な課題となっているが,わが国では,土壌に関する環境基準は定められたものの,未だ法律は制定されておらず,その導入が急務となっている。導入にあたっては,浄化の発動基準,費用負担(または事業の実施)の主体(土地所有者を含むか),無過失責任・遡及責任・連帯責任主義をとるかなどが問題となる。従来の関連法制度やアメリカのスーパファンド法に関する経験を参考にしつつ検討すると,発動基準については,公共に対する危険という観点から民法上の受忍限度よりは広い範囲の救済を可能にし,土地所有者については,汚染者の不明・不在・無資力の場合にのみ補充的責任を課することとし,無過失責任および遡及責任は認めるが,連帯責任については,汚染者間に特に関連性のない通常の場合には,これを否定し,同一の汚染を発生させた処分者・処分委託者・運搬者のように,密接な関係がある場合に限って肯定することが望ましいと考える。

キーワード: 土壌汚染,所有者責任,無過失責任,遡及責任,連帯責任

廃棄物学会誌,Vol. 5, No.5, pp.382-393, 1994

原稿受付 1994.10.24

* 学習院大学法学部 教授

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