【論  文】

し尿処理汚泥の堆肥化過程における物質収支と熱収支

小 川 雄比古*・大 野   茂**・立 本 英 機***

【要 旨】 し尿処理汚泥は全国で毎日830ton(乾物値)が排出されており,その処理,処分は年々深刻化し,大きな社会問題となっている。汚泥は水質規制の強化や処理性能の向上に伴って多く発生する特性があり,水分が非常に高いため脱水,乾燥,焼却等により減量化する際に要するエネルギ―問題が大きな障害となっている。近年,汚泥を安定化させる手段の1つとして,堆肥化技術の開発がさかんに行われているが,その性状変化や物質収支など未検討の課題も多い。し尿処理汚泥について室内堆肥化装置を用い,堆肥化過程における物質収支および熱収支を検討したところ,つぎの成果が得られた。1.規模の小さな堆肥化装置では,損失不明分が大きく,固形物や有機物の物質収支を明らかにすることは困難であった。2.堆肥化装置に投入した炭素および窒素の15%以上が排ガス中に回収されたとき,製品の品温,外観,触感,臭気から判断して堆肥化状態が良好であった。3.汚泥の堆肥化にともなう炭酸ガスの発生量は投入有機物1kgあたり炭素として約170〜230g,同じくアンモニアは窒素として約16gと算出された。4.熱収支から堆肥化状態を把握する場合には,投入汚泥の高位発熱量の15%あるいは投入有機物1kgあたり880kcal以上の堆肥化熱量が得られれば,堆肥化状態は良好であった。

キーワード: 汚泥処理,堆肥化,物質収支,熱収支

廃棄物学会論文誌,Vol. 8, No.5, pp.209-216, 1997

原稿受付 1996.9.2

*神奈川県衛生研究所

**北里大学名誉教授

***千葉大学工学部

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神奈川県衛生研究所 小川雄比古