都市ごみ焼却残渣溶融スラグのバッチ実験における溶出機構
肴 倉 宏 史*・田 中 信 寿*
【要 旨】 都市ごみや,その焼却残渣の溶融処理で得られるスラグの有効利用を行う際には,スラグが環境に与える影響を事前に把握する必要がある。そこで,スラグの成分溶出機構を解明することを目的としてバッチ実験を行った。試料は,自治体稼働施設の6試料を含む8種類のスラグを用いた。実験方法は,溶媒を入れ替えないバッチ型を採用した。実験の結果から,(1)スラグには,水素イオンが直接作用する酸溶出域と,各成分の加水分解溶出によるアルカリ溶出域の二種類の溶出機構が存在し,両機構は,溶媒から供給される水素イオンの量によって明確に区分されることを定量的に示した。(2)アルカリ溶出域において,SiO2飽和のとき,スラグ表面に形成されるSiO2残存層が他の成分の溶出を停止させるという推論を行った。(3)溶出液のpHが9〜10以上のとき,Fe(II),MnおよびMgイオンは沈殿平衡に達して炭酸塩または水酸化物沈殿を生成し,Fe(OH)2の沈殿生成と同時に,Pb,ZnおよびCuイオンが共沈する現象について考察した。
キーワード: スラグ,バッチ実験,溶出機構,水素イオン,溶解度
廃棄物学会論文誌,Vol. 9, No.1, pp.11-19, 1998
原稿受付 1997.5.16
* 北海道大学大学院工学研究科環境資源工学専攻
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北海道大学工学研究科 廃棄物資源工学講座 田中 信寿