【特 集 :残留性有機汚染物質(POPs)】

有機塩素化合物による海棲哺乳動物の汚染と影響

田 辺 信 介*

【要 旨】 海棲哺乳動物は,体内に高濃度の有機塩素化合物を蓄積している。この原因について検討したところ,以下のようなことが明らかになった。1) 熱帯地域の途上国における有機塩素化合物の利用が,地球規模の汚染を加速し,海洋への負荷を増大させている。2) 有機塩素化合物のフラックスは大気から海水へと流れており,海洋はこの種の物質のたまり場となっている。

3) 海棲哺乳動物の体内には脂皮と呼ばれる厚い脂肪組織があり,ここが有機塩素化合物の貯蔵庫となっている。4) 海棲哺乳動物は,授乳により大量の有害物質を次世代へ受け渡している。5) 一部の薬物代謝酵素系が欠落しているため,海棲哺乳動物の有害物質分解能力はきわめて弱い。

海棲哺乳動物では,現在の汚染レベルで性ホルモンの攪乱や薬物代謝酵素の誘導が起こっており,有機塩素化合物の毒性影響は今後さらに顕在化する怖れがある。

キーワード: 有機塩素化合物,コプラナPCB,海棲哺乳動物,地球汚染,毒性影響

廃棄物学会誌,Vol. 9, No.3, pp.202-210, 1998

原稿受付 1998.1.5

* 愛媛大学農学部 教授

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