【特 集 :内分泌攪乱物質】

内分泌攪乱物質の生態影響

――魚類への影響――

原   彰 彦*

【要 旨】 雄魚や未成熟魚に女性ホルモンを投与すると半日から1日以内に血中にこれまで検出されなかった新たな蛋白が出現する。この蛋白はビテロジェニンと呼ばれる血清蛋白質で,通常は卵黄形成中の雌にみられる雌特異血清蛋白である。一方,環境水中のエストロジェン様物質により,雄血中に誘導されることから,近年ビテロジェニンは環境水中の汚染状況を把握するためのバイオマーカーとして知られている。英国では1980年代に汚水処理施設下流に生息するコイ科の魚の精巣内に卵をもつ雌雄同体魚が多く見つかったことから,処理水にエストロジェン様物質が含まれているのではないかとの仮説がたてられ1986年頃よりビテロジェニンを指標とするフィールド調査が開始された。現在,この種の調査は始まったばかりであり,これからのデータの蓄積が重要である。また最近,新たなバイオマーカーとして卵膜蛋白前駆物質であるコリオジェニンが注目されている。

キーワード: 内分泌攪乱物質,魚類,ビテロジェニン,コリオジェニン,エストロジェン

廃棄物学会誌,Vol. 10, No.4, pp.278-287, 1999

原稿受付 1999.6.16

* 北海道大学水産学部 教授

連絡先:〒041-8611 函館市港町3丁目1番1号