【特 集:POPs条約と今後の展望】
化学物質環境リスク管理の潮流
中 杉 修 身*
【要 旨】 わが国における化学物質環境リスクの管理は,化審法による製造・使用の禁止や排水の排出規制から始まったが,その後,新たな汚染が顕在化するたびに,製造・使用の制限,排出の抑制,汚染の浄化および曝露の防止の段階ごとに規制を強化していった。さらに,規制に必要な知見が十分に整わなくても,予防的にリスク管理を行うことが求められるようになり,PRTR制度など,事業者の自主管理によるリスク管理を推進するようになってきた。知見の集積を急ぐ必要はあるものの,規制と自主管理を組み合わせたリスク管理によって,新たな汚染の発生を防止する仕組みは一応構築できたと考えられる。残された課題は,土壌・地下水汚染やPOPsによる環境汚染など,過去の人間活動が残したリスクの管理である。これらの問題を解決するには多くのコストが必要となるため,リスクに係る知見を共有し,社会的な合意の下で意志決定を行っていく必要がある。
キーワード:リスク管理,規制,自主管理,残留性環境汚染,社会的合意
廃棄物学会誌,Vol.12,No.6,pp.329-337,2001
原稿受付 2001.10.9
*独立法人国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター
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