有機臭素系化合物の環境影響
――わが国のPBDEsの環境汚染実態を中心に――
太 田 壮 一*
【要 旨】 日本の臭素系難燃材の需要動向,ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)の物理化学特性,毒性およびわが国のPBDEsによる汚染実態について紹介し,今後の臭素系難燃材による環境汚染の問題点について指摘した。わが国のPBDEsの需要動向としては1990年の12,000tonの最大需要量を境に経年的に減少傾向を示し,2000年には需要量は2,800tonであった。物理化学特性としては,本化合物は光分解し易いものの,環境中ではその半減期はかなり異なっていると推定される。毒性は,PBDEsの現在の曝露レベルでは,ヒトに対する急性毒性(LD50),発ガン性,免疫毒性および催奇性は低い。ただし,新生仔ラットにPentaBDE(BDE71)を投与した場合,母獣と比較して血清中の顕著なT4レベルの減少が観察された。そして,その無作用量(NOEL)は1mg/kg/日であると推定された。長期保存魚であるスズキとボラの歴史的トレンド分析の結果から,わが国のPBDEsの環境汚染は,1990年以降から低下しており,人体汚染(母乳)に関しても欧米のそれと比較して軽度な汚染であることが観察された。
キーワード:ポリ臭化ジフェニルエーテル,PBDEs,臭素系難燃材,光分解,PXDDs/DFs(X=Cl, Br)
廃棄物学会誌,Vol.12,No.6,pp.363-375,2001
原稿受付 2001.10.15
*摂南大学薬学部 助教授
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