【要 旨】 ミカンの搾汁残渣中に含まれるペクチン酸は鉛(II)イオンと強力に錯形成する性質を有する。この性質を利用して,搾汁直後の湿潤状態の残渣に水酸化カルシウムを添加し,粉砕することにより加水分解処理を行い,ペクチン酸の含有量を高めたものを鉛の吸着剤として使用した。水溶液中の鉛イオンの吸着・除去に及ぼす水酸化カルシウムの添加量,吸着剤の乾燥重量と水溶液体積との比率,接触時間,ならびに水溶液のpHの影響について調べた。湿潤状態の残渣には腐敗の問題があり,長期間にわたる使用には問題がある。そこで現在家畜飼料として市販されているロータリーキルンを用いて高温乾燥処理した搾汁残渣との吸着・除去性能の比較を行った。その結果以下のことが明らかとなった。
(1) 上記の処理をした湿潤状態の搾汁残渣ではpHが4〜7の広範なpH領域においてほぼ100%の鉛の除去が達成された。
(2) しかし水溶液のpHが8以上の場合や,添加する水酸化カルシウムの割合が大きすぎる場合には鉛の除去は大きく低下した。
(3) 高温乾燥処理した搾汁残渣では上記の処理をした湿潤状態のものと比較すると,特に固−液比が小さい場合に吸着・除去能力が大きく低下し,鉛の除去には適していなかった。
このように搾汁直後の湿潤状態の搾汁残渣を水酸化カルシウムで加水分解処理したものは鉛イオンの除去に極めて有効であるが腐敗の問題があり,常時使用することはできない。今後は腐敗を防止でき,長期間にわたり使用可能な方法を見出す必要がある。
キーワード:ミカン搾汁残渣,鉛イオン,吸着,除去,ペクチン酸
廃棄物学会論文誌,Vol. 13, No.4, pp.216-222, 2002
原稿受付 2001.9.6
* 佐賀大学理工学部機能物質化学科
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