【特集:残留性化学物質】

残留性の高い化学物質の運命――大気から水,底質,生物へ――
福 島 武 彦*・尾 崎 則 篤**・小 松 登志子**・嶋 津 治 希***

【要 旨】 地域スケールでの化学物質の動態に関する研究,ならびに水と底質間での化学物質分配関係に関する研究,を紹介し,残留性の高い化学物質の運命予測について議論する。まず,多環芳香族炭化水素(PAHs)を対象に,その道路近傍での拡散と堆積,地表面での光変換と降雨時流出,広島湾とその流域での物質動態,魚への取り込み,などの観測,実験,収支計算結果を示す。そうした結果から,大気中の広域拡散,地表面堆積物の降雨時流出,湾域での沈降などがPAHsの主要な移動経路と考えられる。次に,「化学物質と環境」データベースを用いての有害化学物質の直上水と底質中濃度の関係解析,環境中や吸着・脱着実験におけるPAHsや有機リン酸トリエステル(OPEs)の懸濁態-溶存態濃度比の測定をもとに,有害化学物質の懸濁物,底質への分配係数の予測方法を示す。すなわち,こうした予測にあたっては,無機性部分への吸着・取り込みや非平衡現象の評価が必要であることを示す。

キーワード: 残留性化学物質,地域スケールでの化学物質動態,多環芳香族炭化水素(PAHs),吸着・溶け込み,水-底質分配係数
廃棄物学会誌,Vol. 13, No.5 pp.255-263, 2002
原稿受付 2002.7.19
* 筑波大学地球科学系
** 広島大学大学院工学研究科
*** 広島市水道局 技師
連絡先:〒305-8571 つくば市天王台1-1-1
筑波大学地球科学系 福島 武彦