【特 集:いま歴史と文化を考える―ごみ文化研究部会特集―】

江戸・東京ごみの肥料利用とその変遷
稲 村 光 郎*

【要 旨】 江戸ごみの肥料利用は17世紀末に始まっているが,その詳細は知られていない。そこで江戸町触の中から,ごみ処理制度の変化やごみ収集の利権化とそれを巡る争いなどの記述,あるいは不法投棄に対する禁止令の減少に着目し,また本所の名主に伝わった寛永録中の文書から幕府(関東郡代)が肥料利用を認めていたことを明らかにし,肥料利用が1830〜40年代には本格化していたものと推測した。
 次いで,明治維新に伴うごみ価格の高騰を背景として行われた東京府と旧勢力との紛糾については,地方制度改革の動きとの関連も考慮すべきだとし,その後の松方デフレに伴う農村の窮乏が東京にごみ問題をもたらし,再び収集が有償化されたことに触れている。そして最後に第一次大戦後の肥料利用の衰退は,全国的なもので経済的な理由が大きいが,衛生やごみ質など様々な要因もあったとした。

キーワード:肥料,農業,寛永録,塵芥,歴史
廃棄物学会誌,Vol.17, No.6, pp.331-339, 2006
原稿受付2006.10.23
* 稲村技術士事務所
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