【特 集:水銀条約制定に向けての国際動向】

水俣病と水銀条約
原 田 正 純*

【要 旨】 水俣病は1956年5月に正式に確認された。原因は水俣市にある新日本窒素肥料(株)水俣工場 (現在のチッソ(株)) の廃水に含まれていたメチル水銀が魚貝類に蓄積されたことによる。それを多食した不知火海沿岸住民がメチル水銀中毒に罹患した。有機水銀中毒であるが食物連鎖を通じて起こったというその発生の特徴から水俣病と呼ばれた。
 1969年になって患者および家族が原因企業を相手に裁判を起こした。判決は安全性を確認しないで工場廃水を海に流したことは違法であるとして損害賠償を支払うように命じた。この判決や世論を受けて魚貝類に含まれる水銀の安全基準を0.4ppm,メチル水銀で0.3ppmとした。さらに,1962年にはメチル水銀が胎盤を通過して胎児に影響を与えることが明らかになった。患者の正確な数は不明だが約70名が確認されている。世界各地では魚貝類に含まれる微量なメチル水銀が胎児に与える影響が注目されている。各国の報告では母親の頭髪水銀値が10〜20ppmでも胎児に一定の影響を与えることが明らかになっている。
 2011年に水銀の環境汚染に関する国際的規制が計画された。すなわち,2013年までに水銀の規制に関する国際的な条約が模索されており,日本政府はその条約に水俣条約と命名することを提案している。しかし,水俣の問題は決して終わっていない。現状ではその命名に対して異論も在る。

キーワード:水俣病,メチル水銀中毒,胎児性水俣病,水俣条約
廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.5, pp.337-343, 2011
原稿受付2011. 11. 10
* 前熊本学園大学水俣学研究センター長 医学博士,神経精神医学専攻
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