【特 集:水銀条約制定に向けての国際動向】

国際法から見た水銀条約
高 村 ゆかり*

【要 旨】 水銀条約は,人の健康や環境への悪影響を低減・防止するため,産出から,使用,輸出入,環境中への排出,そして最終処分までを通したあらゆる曝露の経路において水銀を規制する方向で交渉中である。水銀はバーゼル条約など他の条約ですでにその一部が規制されているため,これらの条約との齟齬を回避するよう,規律対象の定義と範囲を明確にし,同一の規律対象に国家が相反する義務を負わないようにすることが必要である。他の条約との調整に関する具体的な規定を定めることも有益である。関連条約の事務局との情報交換など継続的な制度的調整とともに,長期的には化学物質関連条約を統合的に管理するしくみの構築が検討されるべきである。
 水銀廃棄物や水銀,水銀含有製品の貿易規制は,特に水銀条約の非締約国からそのWTO協定適合性が争われる可能性がある。国内で水銀含有製品を生産し続けながら同種の製品の輸入を制限する措置や特定の国からの輸入のみ制限する措置は,WTO協定適合性が争われる可能性が高い。保護主義の口実として貿易規制が用いられないための条件を条約に定めることも検討に価する。

キーワード:水銀条約,化学物質関連条約との調整,貿易規制,WTO協定
廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.5, pp.384-393, 2011
原稿受付2011. 8. 30
* 名古屋大学大学院環境学研究科
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