Japan Society of Material Cycles and Waste Management アクセス English
平成22年度 研究集会

平成22年度 研究集会

平成22年度 研究集会
日時:平成22年12月4日
場所:麻生ラファージュセメント㈱田川工場

12月4日(土)に、「セメント工場の廃棄物有効利用の現状と将来展望を探る研究集会」と題した第8回施設研修会を、福岡県田川市にある麻生ラファージュセメント株式会社田川工場において参加者42名を得て実施した。

セメント産業では、工程上、二次廃棄物が発生しないことや高温プロセスによりダイオキシン類の発生が極めて少ないという特徴を生かし、様々な産業や自治体等と連携を図り、廃棄物・副産物のリサイクルに取り組んでいる。廃棄物、副産物の有効活用は、全国平均でセメント1t当たり400~450kg/tであり、天然資源の節約だけでなく、全国的に問題となっている廃棄物の最終処分場不足の緩和に貢献している。セメントの国内販売量は、図-1に示すとおり1996年度のピークから13年間で半減し、2010年度は4000万トンの見通しである。輸出量は一時的に落ち込んだが近年回復(但し、輸出工場は臨海部に限られ限定的)している。
また、セメント工場は、主原料である石灰石の産地に多く立地しており、全生産量の半分が九州地区北部や中国地方西部に集中している。麻生ラファージュセメントは、福岡県中央部の田川工場(4400t/日)と福岡県東部の臨海部に苅田工場(3500 t/日)の2工場を建設し、セメントやクリンカを製造している。

2010120401.jpg
図-1 セメント生産量と国内販売量・輸出量の推移

研修会は、田川工場長の川内氏の挨拶、コミュニケーション部長の百田氏によるスタッフ紹介、生産課マネージャーの角野氏による工場概要の説明、副工場長の大谷氏及び品質管理室室長の堤氏、安全衛生担当の三根氏、品質管理担当の後藤氏、前田氏の案内による視察、資源開発Gマネージャーの山口氏による「セメント工場の廃棄物有効利用の現状と将来展望について」と題した講演、そして質疑の順で約3時間に亘って熱心に行われた。

田川工場では、図-2に示すセメント製造プロセスでポルトランドセメント、高炉セメント等を製造している。廃棄物・副産物については、産業廃棄物13品目、廃油・廃酸・廃アルカリ、廃肉骨粉等を受け入れ焼成処理を行っている。固形の廃棄物はセメント原料に混合され、原料ミルで乾燥・粉砕し、成分調整後にニューサスペンションプレヒーター(NSP)キルンで1450℃の高温で焼成され、クリンカーとなる。このクリンカーに石膏を約3%混合し粉砕するとセメントとなる。廃油はNSP下部の仮焼炉で燃料の一部代替として利用し、廃酸・廃アルカリ等はキルン排ガス中に投入し処理されている。
田川工場の特徴としては、①汚泥と廃油の混合装置を有しているため下水道汚泥の受け入れに対応していること、②150mm径以下の廃プラスチック等を連続破砕できる前処理設備を設け、廃プラスチックを積極的に受け入れていることがあげられる。

2010120402.jpg
図-2 セメント製造プロセス

セメントの品質管理にあたっては、オンライン分析装置にて原料を1回/h、クリンカーを1回/1.5hの頻度で実施している。廃棄物・副産物の受け入れにあたっては、原料の分析結果に基づき1回/月の頻度で受け入れ判定のための会議を行っており、受入れ時にも品質の確認を行っているとのことであった。

■普通ポルトランドセメントを1t作るのに必要な原料・エネルギーの実績
<原料>①石灰石: 1119kg
②原料 :  285kg (粘土:177、けい石:80、鉄原料:28)
③石膏 : 37kg
★セメント:1000kg(①+②+③-排ガス)  ※①+②:★クリンカー
<エネルギー>石炭:103kg、電力:102kWh

廃棄物・副産物の有効利用の課題として、1)今後、廃プラなど可燃性廃棄物が増加すること、2)下水汚泥含水率が70~80%と高いこと、3)土壌汚染対策法改正等の規制強化への対応が求められること等が示された。
課題に対する対応策としては、1)高塩素廃プラの処理ができるように塩素バイパス設備の強化を行うこと、2)下水汚泥発生元での乾燥、減容技術支援を行うこと、3)汚染土壌処理業の許可を取得すること等を検討しているとのことであった。
また、我が国全体の課題として、現在、高炉スラグ・フライアッシュの発生量とセメント化処理能力のアンバランス〔例:高炉スラグ発生量 21.3万t→セメント化14.4万t(国内7.7万+輸出6.7Mt)があること、セメント需要の更なる減少と環境税、石炭税の課税が脅威になること等の全国的に取り組む必要があることも示唆された。

質疑応答(詳細は別掲)では、セメント品質管理と廃棄物・副産物の混合率上昇の関係、塩素バイパス技術、セメント製造時の水硬性、工場等でのCO2排出量抑制対策など活発な意見が交わされ、盛会のうちに研修会は閉会となった。

今回の研修会を通して、セメント工場での廃棄物・副産物の有効利用は、セメント需要とのバランス、セメント製品の品質管理が重要になるが、現状のように品質管理の徹底を行うことにより、今後も継続的に廃棄物・副産物を受け入れることができることを認識した。
最後に、今回の研修にあたって、年末の多忙な時期にもかかわらず資料の準備、工場案内、講演等を担当していただいた麻生ラファージュセメント株式会社のスタッフの皆様に、この場をお借りして衷心より御礼を申し上げます。
講演 1.JPG工場長挨拶.JPG

[講演後の質疑応答(要旨)]

Q:キルンの出口で塩素バイパスをしていると聞いたが、具体的にはどのような方法か。
A:プローブで抽気された1000℃のガスに空気を吹き込み450℃まで冷却すると、ガス中に循環濃縮している塩素が昇華されKCl、NaClの固形物となり、さらにこれを150℃まで冷却し、バグフィルターで引いて回収している。

Q:セメント製造の焼成工程で水硬性が生まれるが、次の仕上げ工程でフライアッシュやスラグを混合する段階で水硬性が高まるものかどうかをご教示いただきたい。
A:焼成工程の段階で、水硬性のあるクリンカーができる。クリンカーは主な4つの鉱物からなるが、これら鉱物の比率を変えることによりセメントの硬化速度を調整することができ、普通セメント、早強セメント、中庸熱セメントといった種類のセメントができる。これらクリンカー鉱物の比率の調整は、原料の石灰石、けい石、粘土、鉄源のそれぞれ主要成分であるCa、Si、Al、Feを調整して行われる。
仕上工程で添加される高炉水砕スラグには潜在水硬性があり、ポルトランドセメントが水と反応するときに生成される水酸化カルシウムCa(OH)2などのアルカリ性の刺激によって水硬性を発し硬化する。この反応で高炉水砕スラグからも水酸化カルシウムが発生するので反応は連鎖的に進む。
同じく添加材であるフライアッシュは水酸化カルシウムCa(OH)2とフライアッシュが反応するいわゆる「ポゾラン反応」によって硬化する。ポゾラン反応の硬化速度はクリンカーの水硬性、スラグの潜在水硬性の反応に比べはるかに遅く、2~3ケ月で硬化を発揮するといわれている。

Q:塩化物イオンの基準が2008年に変更されたと説明されたが、それは緩和されたのか。
A:具体的には200ppmから350ppmに緩和された。これはリサイクルを推進するために、セメント業界の要望を受けて変更されたものである。ただし、法的には満足していても顧客は濃度の上昇変化を好まないため、実際には2~3割程度しか変わっていない。

Q:セメント1t当たりの廃棄物、副産物量が400~450kgで推移しているが、セメント生産量が変動する中、今後、副産物の受入量が増えていく場合、品質の維持を踏まえて、どこまで副産物の含有量を上げることができるのか、その見通しはどうか。
A:まずはJIS規格をクリアすることが必須であるが、セメントの生産量が減り、廃棄物量が増えるという状況下では、品質の他にコスト面での競争となるため、価格的に不利なスラグは使いにくい。しかし、スラグは石灰石のCaの代替になるし、CO2もない材料であり、摩耗性が伸びる材料の開発があれば、個人的にはセメント1t当たりの廃棄物量は500~600kgまで可能ではないかと思う。

Q:セメント協会のパンフレットにあるエネルギー原単位の推移をみると、04年を境に上がっているようだが、その理由は何か。
A:廃棄物、特に下水汚泥をキルンの中に入れているためで、下水汚泥中の水分が水蒸気となり5000t/日処理能力が2割程度ダウンし、釜からの放散熱も処理能力減とは無関係に出ている。そのためエネルギー原単位が悪くなっているものとみられる。需要が減る中で何故作るのか問われるところだが、エネルギー原単位が下がってもコストに見合うものをいただいている。

Q:工場等でのCO2排出量抑制対策について、具体的なものがあればお聞きしたい。
A:当工場でのCO2の排出源は石灰石と石炭であるため、CO2の排出量を少なくするには、これらの原材料をできるだけ使わないことになるが、石灰石の代替品であるスラグが逆有償でフライアッシュに近い価格ぐらいにならないと難しい状況である。また、耐摩耗性でロングランの運転が可能な材料の使用が今後の課題だと考えている。

ページの先頭に戻る