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第11回企画セッション報告

第11回企画セッション報告

企画セッション「バイオマス産業都市の構築」報告

日時:平成25年11月2日(土)

場所:北海道大学工学部一階

報告者:加藤雅彦(岐阜大学)

原油価格の高騰および2011年の東日本大震災と原発事故により改めてバイオマスに注目が集まっている.本部会では2012年度「持続可能なバイオマス系廃棄物利活用」と題した企画セッションを行っている.2012年度の企画セッションでは,7府省により策定され,同年度の9月に発表された「バイオマス利活用事業化戦略」について,その事業化戦略の紹介から,実際に進められている事業の紹介と問題点の提起について農水省や関連企業から講演いただいた.

「バイオマス利活用事業化戦略」を策定した「バイオマス事業化戦略検討チーム」によって日本型バイオマス利活用ビジネスモデル構築促進のための「バイオマス産業都市構想」が進められている.すなわち,「バイオマス産業都市構想」では,経済的に成り立ち,持続的な事業運営を可能とすることが要件として強く盛り込まれている.そのため2013年度の企画セッションでは,2012年度の内容を深化させ,バイオマスを持続的に利活用し地域産業として成り立たせるためには,何が必要で,何が足りていないか,を議論するため企画された.企画セッションでは,初めに,今後のバイオマス系廃棄物利活用の大きな原動力になると考えられる「バイオマス産業都市構想」を紹介いただき,その後,既に選定された産業都市から,産業都市構想の計画と課題等の紹介をいただいた.最後に,今後この構想を全国的に拡大し,バイオマスの持続的利用を実現するために必要な方策について議論を行った.

講演の部では,「バイオマス産業都市構想」において中心的な役割を担っている農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課バイオマス事業推進室室長 鈴村和也氏から,その背景や目的,概念の紹介をいただいた.今回バイオマス産業都市に8地域が選定された.本企画セッションでは,このうち2地域から事例紹介をいただいたが,鈴村氏から他の6地域における取組についてもその概要を聞くことができた.講演の中で,「今回選定に漏れたことは再申請を妨げるものではない」こと,「選定委員からの指摘事項等を加味し,バイオマス産業都市構想の趣旨である経済的に成り立つ構想をさらに盛り込んでもらえれば,次回以降に選定される可能性がある」とのことであった.学会開催地の北海道からは,3地域がバイオマス産業都市に選定された.本企画セッションでは,家畜排せつ物,水産廃棄物やバイオガス発電に取り組む十勝地域(19市町村),別海町から,バイオマス産業都市構想の計画と課題が紹介された.なお,北海道内で選定されたもう1地域は木質バイオマス利活用を主体としているため,本企画セッションでは取り上げなかった.十勝地域からは帯広市産業連携室企画調整監 中村忠範氏から,別海町からは別海町役場産業振興部部長 有田博喜氏から講演いただいた.十勝地域では,バイオマス産業都市構想を実践するために広域組織を形成したわけではなく,従来ある組織の延長線上に,今回のバイオマス産業都市構想がある,とのことが印象的であった.また別海町においては,畜産農家に負担を極力かけないよう,バイオマス産業都市構想を練る段階で努めたところに持続的なバイオマス利活用の工夫が盛り込まれていると感じた.加えて,河川環境への負荷軽減も行う必要があるとの話があり,多面的に考えたバイオマス産業都市構想を進める必要があることが浮き彫りになった.

総合討論の部では,時間が限られた中,いくつかの課題が挙げられた.バイオマス産業都市構想を進める中で入口から出口までのサプライチェーンの構築が不可欠である.入口の段階では,初期投資,設備の保守管理,産業都市構想を地域農家へ理解してもらうことの難しさが指摘された.また出口側では,その戦略構想の内容をはじめ,バイオマスエネルギーの農業利活用の効率化が課題として挙げられた.すなわち,電力をそれほど必要としない農業において熱量をいかに利用していくかが重要となる.規模拡大がコスト低減に繋がるものの現状の制度では一定以上の発電が実質的に抑制されてしまうためである.またバイオマス産業都市構想全般において継続的な人材育成の必要性が指摘された.当部会あるいは学会からの情報提供等での貢献の必要性を改めて認識させられるものとなった.

本企画セッションには約90名の参加をいただいた.例年のセッション(100~130名)に比べ,やや参加者数は少なかったが,学会全体の参加者数を考慮すると,盛会であったものと考えている.本企画セッションは,部会としての方向性を改めて議論することの必要性を認識させるものとなった.今後,部会内において部会の方向性の議論を深めていく予定である.最後にセッションンで講演いただいた講演者の方々,セッションに参加いただいた方々,セッション開催を調整いただいた方々に深謝申し上げたい.

session11

左よりパネラーの鈴村氏,中村氏,有田氏,コーディネーターの金子氏

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