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第15回企画セッション「バイオマス資源循環において生産される副産物をどのように活かすか」報告

第15回企画セッション「バイオマス資源循環において生産される副産物をどのように活かすか」報告

【G9】バイオマス資源循環において生産される副産物をどのように活かすか!?

-バイオマスソース,プラントから品質・利活用を通じて-

 

バイオマス系廃棄物研究部会では,ここ数年,バイオマス循環社会の構築実現に向けた企画セッションを設けてきた。2015年度においては,「官」,「産」,「学」のそれぞれから取り組み事例を紹介し,バイオマス循環社会の構築に対する産学官連携において「学」に望まれていること(何をすべきか)を議論した。これらの議論の中で,産学官+民金の連携の強化とともに,バイオマス資源循環のための要素技術(とくに副産物の利活用)の現状を整理する必要性が挙げられた。その結果を受け,昨年度は「バイオマス資源循環において生産される堆肥等の品質と安全性」について議論した。今回の企画セッションでは,昨年度に引き続きこの問題を取り上げ,バイオマス原料から生産されるメタン発酵消化液や堆肥等を中心とする副産物に焦点を当て,バイオマスソースごとにその副産物の品質,利活用,管理技術における課題について議論することにした。

前半の講演の部では,3名の講師をお招きし,バイオマス資源循環において生産される副産物の有効活用について様々な事例をご紹介いただいた。まず公団)日本下水道新技術機構の石田貴氏より「下水処理場へのバイオマス(生ごみ等)受け入れ」という題目で,下水処理場の集約力を活かした地域バイオマスの受け入れ事例とその効果についてお話しいただいた。バイオマスソースごとに処理工程中の分解性に着目した受け入れ可能性とその効果について,恵庭市を中心に4都市の先行事例を交えながらわかりやすく説明していただいた。つづいて,三井造船(株)の中嶋幸子氏より「固形状ふん尿を原料としたメタン発酵副産物の敷料利用」という題目で,スラリー状の糞尿に固形糞尿(牛舎などの敷料を含む)を混合して処理を行う事例をご紹介いただいた。糞尿のみの処理と対比した工程の違いと物質収支について説明がなされた。本事例で特筆すべき点は,消化液以外の固体状の残渣を再生敷料として再利用する点である。メタン発酵で易分解物が除去されており,臭いも無く肌触りの良い繊維状の再生敷料が得られる。敷料を追加して積み上げても大腸菌群の増殖が抑えられ,衛生面・性状ともに農家に大人気であるという。さいごに,一財)畜産環境整備機構の羽賀清典氏より,「輸入飼料に含まれるクロピラリドが原因と疑われる園芸作物等の生育障害」という題目でご講演いただいた。海外で使用された農薬(クロピラリド)が輸入飼料に混入し,それが堆肥化した国内の家畜の糞尿を介して農作物に生育障害をもたらすという。農作物の無農薬・有機栽培においても堆肥の副産物利用面においても大問題である。そこで,各種作物への影響(濃度と耐性)と乳牛体内中のクロピラリド動態調査と簡易生物検定法(残留指数)の開発が行われた。残留指数に基づいた堆肥の施用量の判定基準(堆肥の安全性を担保)が制定でき,一連の成果は冊子および農作物ごとのデータベースとして農研機構のホームページにて公開中とのことである。

後半では,講演者地3名をパネラーとしてパネルディスカッションを行った。それぞれの事例の中での課題とその対処法について話していただき,フロアからの質問も交えた活発な議論が交わされた。下水処理場で生ゴミなどの地域バイオマスを受け入れ汚泥と混ぜて利用すること,糞尿とともに使用済み敷料を混ぜた状態でメタン発酵して液肥と再生敷料を得ること、海外からの輸入飼料に混ざった状態で入ってくる農薬に対して対処すること,3人の講師の先生方の取り組みは三者三様のユニークな発想で副産物の利活用を目指しておられるが,共通して「新しいものを受け入れてもらうことのむずかしさ」を挙げておられたのが印象的であった。

今回,最終日の最後の枠にて行った本セッションに,60名近くご参加いただき,盛会のうちに有意義な時間を過ごすことができた(図1)。講師の先生方,ご参加いただいた方々,そして本企画の実施に多方面からご協力いただいた方々に心よりお礼申し上げる。「副産物をどうするか」という問題は以前より議論されてきているものの,未解決課題も多く残されている「古くて新しいテーマ」である。保守的になりがちな現場に安心して新技術を導入してもらい,副産物も含めた完全な資源循環を目指す,それこそが,資源循環学に携わるわれわれが取り組むべき姿ではないかと感じた。

セッションの様子

末原憲一郎(三重大学)

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