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No.2 廃棄物処理施設の環境排出量(PRTR)に関連する話題

平成25年3月  第24巻 第2号 

目次

巻頭言

アジアにおける廃棄物管理・資源循環協力試論……谷津龍太郎 115

特集 廃棄物処理施設の環境排出量(PRTR)に関連する話題

PRTR制度の現状と課題について [1]…………水谷好洋 117
下水処理施設に係る届出外排出量の推計 [2]……鈴木 穣・神山 敏 123
一般廃棄物処理施設に係る届出外排出量の推計 [3]……神山 敏・笹原 圭・清木真明 129
有害金属のPRTRデータと環境排出量 [4]……小口正弘 135
利根川水系におけるホルムアルデヒドによる水道取水障害と再発防止に向けての環境省の取り組みについて [5]……塩見拓正・廣木雅史 144

入門講座 廃棄物資源循環のための理化学基礎講座 1

化学物質の環境運命 コンパートメントモデルとは……渡辺信久 153

支部特集

北海道支部の活動……中村恵子 160

書評

森 晶寿 編:東アジアの環境政策……田崎智宏 163
安井 至,21世紀版“成長の限界”検討会 著:地球の破綻 Bankruptcy of the Earth 21世紀版 成長の限界……渡辺信久 164

要旨

PRTR制度の現状と課題について

水 谷 好 洋*

【要 旨】 PRTR制度は,人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質が,どこから,どれだけ排出されているかを知るとともに,化学物質の排出量や化学物質による環境リスクを削減するための制度である。2011年度は,全国36,638事業所より化学物質の排出量・移動量の届出があり,排出量約174千ton,移動量約225千ton,総排出量・移動量が約399千tonであった。事業所数は前年度と比べて減少しているものの,総届出排出量・移動量および継続物質の総排出量・移動量ともに前年度に比べて若干増加した。しかしながら,制度設立以降,継続物質の排出量・移動量はほぼ減少傾向にあり,化学物質による環境リスクの低減に一定の効果があったと考えられる。
 今後は,廃棄物処理施設等からの届出外排出量推計方法の確立,化学物質の代替のあり方,消費者,廃棄物処理業者への情報伝達などの課題に取り組むことが必要と考えられる。


キーワード:PRTR,化学物質の自主的管理

廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.2, pp.117-122, 2013
原稿受付 2013.2.22

* 環境省環境保健部環境安全課

連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2
環境省環境保健部環境安全課  水谷 好洋

下水処理施設に係る届出外排出量の推計

鈴 木   穣*・神 山   敏**

【要 旨】 下水処理施設からの化学物質排出量は,一部の化学物質についてPRTR (Pollutant Release and Transfer Register 化学物質排出移動量届出制度) に基づき下水道事業者から届出され集計されているが,その他の化学物質については把握されていないことから,これらの排出量について,環境省により設置された作業部会が推計を行った。まず,下水処理施設への流入量を,PRTRに基づき事業者から届出される「下水道への移動量」に加えて,家庭排水や路面排水等による流入量の推計値を算入することにより,推計した。次に,実測データ等に基づいて下水処理施設における媒体別移行率を設定し,これを流入量に乗じることにより,下水処理施設から大気および公共用水域への排出量を推計した。なお,路面排水中の濃度や下水処理施設での生分解度など,限られたデータに基づいて推計したものが少なからずあるため,さらにデータを蓄積して推計精度についての検討を深めることが望まれる。


キーワード:下水処理施設,流入量,媒体別移行率,路面排水,生分解度

廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.2, pp.123-128, 2013
原稿受付 2013.2.6

* (独)土木研究所
** (株)環境計画研究所

連絡先:〒305-8516 茨城県つくば市南原1-6
(独)土木研究所  鈴木 穣

一般廃棄物処理施設に係る届出外排出量の推計

神 山   敏*・笹 原   圭*・清 木 真 明*

【要 旨】 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(いわゆる「化管法」) に基づくわが国のPRTR制度では,廃棄物処理施設からの環境中への排出量は一部を除いて届出されないため,国は届出外排出量としての推計を試みた。数年間の検討を経て,まず一般廃棄物処理施設 (ごみ焼却施設) に限って大気等への排出量を推計し,公表することとした。大気を中心として排出量を推計した結果,鉛・ニッケル・アセトアルデヒドなど17物質の合計として,2011年度の全国での排出量は約160tonと推計された。しかし,今回の推計結果には信頼性としての課題が残っているため,さらにデータを収集し,継続的な見直しを行うことが不可欠と考えられる。また,産業廃棄物処理施設 (焼却施設) なども信頼できる測定データなどを収集し,推計・公表の対象として追加することが必要と考えられる。


キーワード:「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(いわゆる「化管法」),PRTR,届出外排出量,ごみ焼却施設,信頼性

廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.2, pp.129-134, 2013
原稿受付 2013.1.17

* (株)環境計画研究所

連絡先:〒183-0023 東京都府中市宮町2-15-13 第15三ツ木ビル2階
(株)環境計画研究所  神山 敏

有害金属のPRTRデータと環境排出量

小 口 正 弘*

【要 旨】 水銀,鉛,カドミウムなど有害金属の適正管理に向けた基礎情報としてマテリアルフローと環境排出量データの継続的な整備が求められている。そのためには,化学物質排出移動量届出制度 (PRTR制度) 等の既存の施策によって継続的に取りまとめられる情報の活用を図ることも一つの方法である。本稿では,業種ごとの届出排出量の推移や算出方法の面からPRTR届出排出量データの特徴を理解し,環境排出量データの継続的な整備への活用可能性を議論した。PRTR届出排出量は届出事業所数の変化や主要事業所の届出状況によって大きく変化し得ること,取扱量や排出量の算出方法によって値の持つ意味が異なる可能性があることなどが指摘された。特に届出排出量の算出方法についてその実態を把握することは有害金属のマテリアルフローと環境排出量の把握においてPRTRデータの位置づけを理解する上で重要な課題であると考えられた。


キーワード:化学物質排出移動量届出制度 (PRTR制度),水銀,鉛,カドミウム,排出インベントリー

廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.2, pp.135-143, 2013
原稿受付 2013.2.7

* (独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター  小口 正弘

利根川水系におけるホルムアルデヒドによる水道取水障害と再発防止に向けての環境省の取り組みについて

塩 見 拓 正*・廣 木 雅 史*

【要 旨】 2012年5月に利根川水系において発生したホルムアルデヒドによる水道の取水障害は,産業廃棄物に含まれていた原因物質のヘキサメチレンテトラミンが,産業廃棄物処理業者での処理により十分処理されないまま公共用水域に排出され,浄水場での塩素処理によりホルムアルデヒドを生成したものと推定されている。
 環境省では,2012年6月から8月にかけて「利根川水系における取水障害に関する今後の措置に係る検討会」を設置して検討を行い,8月に「中間取りまとめ」を行った。この「中間取りまとめ」を受けてヘキサメチレンテトラミンを「水質汚濁防止法」の指定物質に追加するとともに,ヘキサメチレンテトラミンを含む産業廃棄物の処理委託等に係る留意事項について都道府県等に通知した。
 今後も,ヘキサメチレンテトラミン以外の物質も含めて,公共用水域に排出される排出水の管理,産業廃棄物の適正な処理等について検討を進めていく予定としている。


キーワード:ヘキサメチレンテトラミン,ホルムアルデヒド,WDSガイドライン

廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.2, pp.144-152, 2013
原稿受付 2013.2.1

* 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課

連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課  塩見 拓正