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No.2 国際物質循環:資源性と有害性

平成23年3月 第22巻 第2号

目次

巻頭言

廃棄物資源循環学会に期待すること……吉田 勧 115

特集:国際物質循環 : 資源性と有害性

バーゼル条約に関する環境省の取り組み:アジア地域における取り組みとバーゼル条約の最新動向 [1]……本多 俊一 117
使用済みPETボトルの国内外マテリアルフローと中国におけるプラスチックリサイクル [2]……寺園 淳・林 廣和・吉田 綾・中谷 隼・森口 祐一 125
途上国の経済発展とバーゼル条約 [3]……小島 道一 140
アジアにおける持続可能な資源循環へ向けた段階別アプローチ―― 3Rイニシアティブの国際展開の経験に基づいて―― [4]……堀田 康彦 148
不適正なE-waste 処理に伴うポリ臭素化ジフェニルエーテル汚染の現状と課題 [5]……梶原 夏子・滝上 英孝 159
ベトナムE-waste処理地域における臭素系難燃剤およびダイオキシン類縁化合物の人体汚染と曝露実態 [6]……高橋 真・Nguyen Minh Tue・Pham Hung Viet・田辺 信介 169

活動報告

平成22年度廃棄物資源循環学会主催技術セミナー「安全安心を重視したクローズドシステムを採用した最終処分場を見る」開催報告…… 180

支部だより

九州支部「出前講演会in Nagasaki――災害廃棄物の最前線から――」開催報告…… 181
九州支部「セメント工場の廃棄物有効利用の現状と将来展望を探る研究集会」開催報告…… 183

支部特集

北海道支部の活動(より広く,外へを目指して)…… 187

書評

東京大学サステイナビリティ学連携研究機構編著:クリーン&グリーンエネルギー革命――サステイナブルな低炭素社会の実現に向けて――……酒井 伸一 188
植田和弘,山川肇編:拡大生産者責任の環境経済学――循環型社会形成にむけて――……田崎 智宏 189

編集後記 191

要旨

バーゼル条約に関する環境省の取り組み:アジア地域における取り組みとバーゼル条約の最新動向

本多 俊一*

【要旨】 わが国は,バーゼル条約に加盟後,国内の関連法に基づく有害廃棄物の越境移動管理だけでなく,バーゼル条約締約国会合の決議に基づくさまざまな国際的な活動に関わってきている。特にアジア地域に関しては,わが国のイニシアティブによる有害廃棄物の不法輸出入防止対策や電気電子機器廃棄物 (E-waste)の環境上適正な管理等の活動について,域内のバーゼル条約締約国やバーゼル条約地域センターと連携して行っている。こうした活動はアジア地域全体の有害廃棄物管理に対する管理能力の向上等に貢献しており,域内の締約国における有害廃棄物の環境上適正な管理構築に向けた各種国内活動を支えている。さらにわが国はアジア地域内のみならず,バーゼル条約締約国会合の決議に基づくグローバルなプログラムに対しても主要国として参画している。本稿はバーゼル条約におけるわが国の取り組みについて紹介する。


キーワード:バーゼル条約,越境移動,環境上適正な管理,有害廃棄物,E-waste

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.117-124, 2011
原稿受付2011. 1. 31

* 環境省廃棄物・リサイクル対策部適正処理・不法投棄対策室

連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞ヶ関1-2-2
環境省廃棄物・リサイクル対策部適正処理・不法投棄対策室  本多 俊一

使用済みPETボトルの国内外マテリアルフローと中国におけるプラスチックリサイクル

寺園 淳*・林 廣和**・吉田 綾*・中谷 隼***・森口 祐一*

【要旨】 国内の使用済みPETボトルリサイクルは原料の市場価値の変動によって大きな影響を受けており,安定的で持続可能なリサイクルが求められている。本論文では,貿易統計や中国での現地調査によって,PETボトルの国内外マテリアルフローと中国における廃プラスチックリサイクルの概要を把握し,課題を議論した。まず,国内における使用済みPETボトルのマテリアルフローを検討した結果,廃PET輸出量40万ton (2009年度) はその半分程度しか由来を説明できず,国内フロー全体を再検討する必要性を指摘した。次に,日本・中国・香港の間の廃プラスチックの貿易量を分析した結果,日本からの廃PETは対中国直接輸出が増加して30万ton (2009年) となっている。さらに,中国における現地調査の結果,輸入された廃PETはフレーク化やペレット化までを実施する施設が多く,製品製造は別施設で実施されていた。洗浄排水の処理は残渣の処分とともに,環境配慮面の課題としてあげられる。


キーワード:PETボトル,フレーク,中国,輸出,容器包装リサイクル法

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.125-139, 2011
査読付展望論文
原稿受付2011. 2.2 原稿受理2011. 3. 30

*(独)国立環境研究所
**(株)産業情報研究センター
***東京大学大学院工学系研究科

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所循環型社会・廃棄物研究センター 寺園 淳

途上国の経済発展とバーゼル条約

小島 道一*

【要旨】 バーゼル条約の発効した1992年から19年,先進国から発展途上国への有害廃棄物の輸出を禁止するBan改正案の採択から16年が経とうとしている。この間,有害廃棄物の輸出入をとりまく状況は大きく変化してきた。資源価格の高騰から,廃棄物を資源として利用する意味の重要性が高まっている。また,一部の途上国で有害廃棄物の処理・リサイクル施設の整備が進み,先進国と途上国を二分して,規制の枠組みを考える意味が失われてきている。適正処理・リサイクル施設の状況,不適正なリサイクル業者の存在などを考慮に入れながら,廃棄物を資源として有効利用していくため,バーゼル条約を中心とする越境移動の規制についての見直しを行う必要が出てきている。実際に越境移動の規制見直しを行うためには,締約国会議等で上記のような問題意識を各国からの参加者が共有できるかが重要であると思われる。


キーワード:有害廃棄物,バーゼル条約,越境移動,経済発展

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.140-147, 2011
査読付展望論文
原稿受付2011. 1. 25 原稿受理2011. 3. 26

* (独)日本貿易振興機構アジア経済研究所

連絡先:〒261-8545 千葉市美浜区若葉3-2-2
(独)日本貿易振興機構アジア経済研究所  小島 道一

アジアにおける持続可能な資源循環へ向けた段階別アプローチ――3Rイニシアティブの国際展開の経験に基づいて――

堀田 康彦*

【要旨】 2005年の3Rイニシアティブの発足以来,日本政府はアジア各国での廃棄物管理・3R政策の形成に向けて,さまざまな支援や政策対話を実施してきた。アジア各国でも,廃棄物管理および資源循環に関連した法制度・政策の形成が進展してきている。その一方で,そうした政策の実施や制度の運用(すなわちガバナンス)でさまざまな課題が存在している。アジア各国での3R・資源循環政策の充実,ガバナンスの改善に必要な優先課題を議論し,それに取り組む上で,静脈経済の発展段階に沿ったアプローチの必要性を仮説的に論じた。その上で,アジアでの国際的な政策連携を視野に入れた上で,拡大生産者責任政策を例として,アジアにおける持続可能な資源循環へ向けた段階別アプローチのあり方について検討・提案を試みた。


キーワード:国際資源循環,ガバナンス,拡大生産者責任,電子電気機器廃棄物,3Rイニシアティブ

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.148-158, 2011
査読付展望論文
原稿受付2011. 1. 19 原稿受理2011. 3. 8

*(財)地球環境戦略研究機関持続可能な消費と生産グループ

連絡先:〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口2108-11
(財)地球環境戦略研究機関持続可能な消費と生産グループ  堀田 康彦

不適正なE-waste処理に伴うポリ臭素化ジフェニルエーテル汚染の現状と課題

梶原 夏子*・滝上 英孝*

【要旨】 臭素系難燃剤の一種であるポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)は電気・電子機器の筐体や室内装飾材など幅広い製品に使用されてきたが,その蓄積性や潜在的な毒性の高さから国際的に規制が強化されている有害物質である。近年,使用済みテレビやパソコン等の電気・電子機器廃棄物(E-waste)の先進国から途上国への輸出と,途上国におけるE-wasteの不適正なリサイクル・廃棄処理に伴うPBDEsおよびその関連物質による環境汚染の拡大が懸念されている。本稿では,不適正なE-waste処理に伴うPBDEs汚染の現状,とくにPBDEs汚染が顕在化しているアジア途上国での実態と今後解決すべき課題について,最近の知見や情報を踏まえながらまとめた。


キーワード:電気・電子機器廃棄物 (E-waste),PBDEs,臭素化ダイオキシン類,野焼き,リサイクル

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.159-168, 2011
査読付展望論文
原稿受付2011. 1. 20 原稿受理2011. 3. 30

*(独)国立環境研究所循環型社会・廃棄物研究センター

連絡先:〒305-8506 つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所循環型社会・廃棄物研究センター 梶原 夏子

ベトナムE-waste処理地域における臭素系難燃剤およびダイオキシン類縁化合物の人体汚染と曝露実態

高橋 真*・Nguyen Minh Tue*・Pham Hung Viet**・田辺 信介*

【要旨】 ベトナム北部のE-waste処理地域等から採取したヒト母乳・ダスト・大気試料を対象に,ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)等の臭素系難燃剤やポリ塩素化ビフェニールを測定し,その曝露実態を評価した。ダスト試料に関してはin vitroバイオアッセイによるダイオキシン様活性の測定や関連物質の分析を実施した。E-waste処理地域の住民や処理作業従事者の母乳からは,高濃度のPBDEsが検出された。母乳中PBDEs濃度はE-waste処理作業の従事年数に伴って増加する傾向が認められた。臭素系難燃剤の1日あたり取込量を推計したところ,E-waste処理地域では都市域よりも明らかにPBDEsの取込量が多く,特に小児の取込量は成人の約2倍に達することが示された。E-waste処理地域のダスト試料では高いダイオキシン様活性が認められ,臭素化ジベンゾフランや未知のAhRアゴニストの活性寄与が示唆された。


キーワード:E-waste,臭素系難燃剤,ダイオキシン類縁化合物,母乳,ダスト

廃棄物資源循環学会誌,Vol.22, No.2, pp.169-179, 2011
査読付展望論文
原稿受付2011.2.15 原稿受理2011.3.21

* 愛媛大学沿岸環境科学研究センター
** Centre for Environmental Technology and Sustainable Development, Hanoi University of Science

連絡先:〒790-8577 愛媛県松山市文京町2-5
愛媛大学沿岸環境科学研究センター 高橋 真