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No.3 生体異物の代謝から見通す化学物質との共存と棲み分け

令和元年5月 第30巻 第3号

目次

巻頭言

地方自治体のごみ処理施設運営状況……蓑田 哲生 159
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特集 生体異物の代謝から見通す化学物質との共存と棲み分け

有害物と生体との距離を保つ共存と棲み分け [2]……渡辺 信久 162
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AhR――「宿主-環境」相互作用を担う化学物質センサー―― [4]……川尻  要 168
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ダイオキシン類のリスク管理――AhRに着目したアプローチと類縁化合物への展開―― [6]……鈴木  剛 179
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薬毒物代謝酵素と環境汚染物質の代謝活性化 [8]……中尾 晃幸 186
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生物学的環境修復技術におけるダイオキシン類の分解と代謝 [10]……惣田  訓 194
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POPsの非意図的生成と制御――利用可能な最良の技術(BAT)および環境のための最良の慣行(BEP)―― [12]……藤森  崇・川本 克也 201
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平成30年度廃棄物資源循環学会セミナー報告

平成30年度中小廃棄物処理施設における廃棄物エネルギー回収方策等に係る説明会の実施報告……早田 輝信 212
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有害重金属廃棄物の長期管理・処分に関するセミナー……日下部 武敏 218
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会議報告

第5回3R国際学会(タイ・バンコク)の開催報告……浅利 美鈴 221
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支部特集/支部だより

支部だより:東海・北陸支部の活動報告(2018年度)…… 223
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書評

保坂直紀著:クジラのおなかからプラスチック……釜田 陽介 225
樋口壮太郎著:最終処分技術 早期安定化・高塩類対策・副生塩リサイクル・埋立再生・新技術……金  相烈 226
コンラッド・タットマン著 黒沢令子 訳:日本人はどのように自然と関わってきたのか――日本列島誕生から現代まで――……渡辺 信久 227

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要旨

有害物と生体との距離を保つ共存と棲み分け

渡 辺 信 久*

【要 旨】 ダイオキシン類は生体にとっては毒であるが,一方で生体へのアクセスを抑制することが可能である。すなわち,生成抑制と吸着保持を巧みに組み合わせることで,火を使いながらも,ダイオキシン類が身近にありながらも,棲み分けることが可能である。このように,有害なものと生体との距離が保たれる「共存と棲み分け」のメカニズムは,有毒でありながら必須な元素の生体による利用 (たとえば血中のセレン),底質土壌への重金属類の閉じこめ,熱で活性化した六価クロムの有機物による安定化等,自然界の各所で観測されている。これらは,永い生命と自然の歴史から獲得された能力であると考えられる。しかし,注意しなければならないことに,自然環境がすべての有害物について「共存と棲み分け」の機能を用意しているわけではない。移動性と残留性を要件とするPOPs物質は,生体アクセスのポテンシャルが高く,「共存と棲み分け」は難しいと考えられる。


キーワード:有害物,共存,自然の浄化機能,吸着,POPs

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30, No.3, pp.162-167, 2019
原稿受付 2019.4.15

* 大阪工業大学 工学部 環境工学科 循環基盤工学研究室

連絡先:〒535-8585 大阪市旭区大宮5-16-1
大阪工業大学 工学部 環境工学科 循環基盤工学研究室  渡辺 信久

AhR――「宿主-環境」相互作用を担う化学物質センサー――

川 尻   要*

【要 旨】 芳香族炭化水素受容体 (AhR) は「内・外」環境,および「腸内細菌」との境界に位置し,「内」・「外」環境の低分子化学物質や「腸内細菌」の産生物を刺激として「内」環境応答系に伝達する重要な化学物質センサーである。AhRは芳香族炭化水素類やダイオキシン類と結合して異物代謝酵素誘導や発がん,ダイオキシン類の毒性発現に関与する受容体として認識されてきた。近年,AhRは食物,細胞,共生微生物などに由来する代謝産物をリガンドとして,免疫や幹細胞制御,細胞分化などの生命活動に関与して生体防御や恒常性維持に働くことが明白になった。AhRシグナル経路は細胞内で多くの情報伝達経路と相互に作用しており,AhRに強い親和性と体内蓄積性をもつダイオキシンが介入することによって多様な疾患を誘発する。包括的なAhRの生理的機能とそれに関与するアゴニスト・アンタゴニストの同定によって,AhRがヒト疾患に対する治療標的として重要な役割をはたすことが期待される。


キーワード:異物代謝,免疫,リガンド,幹細胞制御,腸内細菌

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30, No.3, pp.168-178, 2019
原稿受付 2019.3.18

* 埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所

連絡先:〒362-0806 埼玉県北足立郡伊奈町小室818
埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所  川尻  要

ダイオキシン類のリスク管理――AhRに着目したアプローチと類縁化合物への展開――

鈴 木   剛*

【要 旨】 2002年の「持続可能な発展に関する世界首脳会議 (WSSD, World Summit on Sustainable Development)」では,有害化学物質の管理について「予防的取組方法に留意しつつ,透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順を用いて,化学物質が人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用,生産されることを2020年までに達成することを目指す」(WSSD2020年目標) ことが合意されている。国際社会は,WSSD2020年目標の達成を目指して,ダイオキシン類を含む有害化学物質の管理政策を進めている。本稿では,国際的な化学物質管理の潮流を整理してダイオキシン類対策の位置づけを明確にした上で,芳香族炭化水素受容体 (AhR) に着目したダイオキシン類のリスク管理の実際やダイオキシン類と同様の性質 (構造類似性,AhR結合活性,環境残留性や生物蓄積性) を示す類縁化合物への展開について紹介する。


キーワード:ダイオキシン類,芳香族炭化水素受容体 (AhR),毒性等価係数,毒性等量,ダイオキシン類縁化合物

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30, No.3, pp.179-185, 2019
原稿受付 2019.5.6

*(国研) 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 基盤技術・物質管理研究室

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研) 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 基盤技術・物質管理研究室  鈴木  剛

薬毒物代謝酵素と環境汚染物質の代謝活性化

中 尾 晃 幸*

【要 旨】 われわれの身の回りには数百~数千種類もの化学物質が存在し,米国ケミカルアブストラクトサービス (CAS) への登録数も1億4千万種類を超えている。それぞれの化学物質の毒性は,一般毒性試験により評価され,そこから導かれる半数致死量 (LD50) や無毒性量 (NOAEL) の数値を比較して毒性の強弱を判断している。環境や食品中に存在する環境汚染物質は,種々の経路から生体内に取り込まれる。多くの化学物質は生体内に取り込まれた後,吸収,分布,代謝過程で解毒され,速やかに体外へ排泄される。しかし,一部の環境汚染物質は,主に肝臓に存在するCytochrome P450 (P450) により代謝活性化を受け,親化合物より毒性が強くなる代謝物へと変換される。本稿では,毒性試験法の概要と代謝にかかわるP450について包括的に整理した。さらに,環境汚染物質が代謝活性化を示す一例をあげ,代謝物の毒性評価の重要性を指摘した。


キーワード:環境汚染物質,変異原性,薬毒物代謝,代謝活性化,Ames試験

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30,No.3, pp.186-193, 2019
原稿受付 2019.4.1

* 摂南大学 薬学部 疾病予防学研究室

連絡先:〒573-0101 大阪府枚方市長尾峠町45-1
摂南大学 薬学部 疾病予防学研究室  中尾 晃幸

生物学的環境修復技術におけるダイオキシン類の分解と代謝

惣 田   訓*

【要 旨】 本稿では,ダイオキシン類の微生物分解と植物による吸収に関する知見を概説した。Dehalococcoides属等の嫌気性細菌は,脱ハロゲン呼吸によって,塩素置換数の多いダイオキシン類を脱塩素化することができる。Sphingomonas属,Pseudomonas属,Burkholderia属等の好気性細菌には,主に共代謝によって塩素置換数の少ないダイオキシン類を分解できるものがいる。白色腐朽菌は,P450と細胞外に分泌するリグニン分解酵素群によってダイオキシン類を分解することができる。ウリ科植物は,ダイオキシン類を土壌から吸収し,茎や葉に蓄積することができる。また,ダイオキシン類に汚染された土壌の環境負荷の少ない浄化方法として,植物-微生物系によるリゾレメディエーションが有望である。


キーワード:ダイオキシン類,共代謝,脱塩素化,白色腐朽菌,バイオレメディエーション

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30, No.3, pp.194-200, 2019
原稿受付 2019.4.2

* 立命館大学 理工学部 環境都市工学科

連絡先:〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1
立命館大学 理工学部 環境都市工学科  惣田  訓

POPsの非意図的生成と制御――利用可能な最良の技術 (BAT) および環境のための最良の慣行 (BEP)――

藤 森   崇*・川 本 克 也**

【要 旨】 残留性有機汚染物質 (POPs) に関するストックホルム条約において,附属書Cの非意図的生成物を最小化する技術や管理体制を議論する際に,「利用可能な最良の技術 (BAT)」および「環境のための最良の慣行 (BEP)」という概念を用いる。用語の定義,非意図的生成物の排出源,排出制限値,生成因子,排ガス制御装置,およびBAT/BEPの適用等に関する「BATガイドラインおよびBEP暫定ガイダンス」に基づき,各締約国の技術的・経済的・地域的な特性を考慮した上で,非意図的生成物の最小化に向けた取り組みが進められている。日本では,法制度の整備,制御技術の導入,また有機顔料中の副生PCBへの対応等がなされてきた。近年では,非意図的生成物の対象は附属書A (廃絶) や附属書B (制限) のPOPsにまで拡張し,BAT/BEPの適用が議論されている。廃電気・電子製品の野焼き等の新たな排出源や,附属書Aの新規POPsの熱分解に伴う非意図的生成といった諸課題への広がりもみせている。


キーワード:残留性有機汚染物質 (POPs),非意図的生成,利用可能な最良の技術 (BAT),環境のための最良の慣行 (BEP),ガイドライン

廃棄物資源循環学会誌,Vol.30, No.3, pp.201-211, 2019
原稿受付 2019.3.25

* 京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻
** 岡山大学大学院 環境生命科学研究科 資源循環学専攻

連絡先:〒615-8540 京都市西京区京都大学桂C1-3-462
京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻  藤森 崇