- 学会誌・論文誌 - https://jsmcwm.or.jp/journal -

No.5 マイクロプラスチックの陸域からの流出状況と対策

令和4年9月 第33巻 第5号

目次

巻頭言

未来を予測して解決策を示す……吉田 英樹 325
PDF, 213KB [1]

特集 マイクロプラスチックの陸域からの流出状況と対策

マイクロプラスチックの陸域からの流出に関する国際動向・環境政策 [2]……長谷 代子 326
PDF, 573KB [3]

海洋プラスチックごみ抑制につながる炭素循環の位置づけ [4]……吉岡 敏明 332
PDF, 754KB [5]

海洋プラスチックごみの流出抑制に資する劣化・微細化研究の取り組みと今後の展開 [6]……鈴木  剛・田中 厚資・高橋 勇介・倉持 秀敏・大迫 政浩 340
PDF, 1.2MB [7]

マイクロプラスチックの測定 [8]……吉里 尚子 357
PDF, 1.1MB [9]

埋立処分場,および都市ごみ焼却施設から排出されるマイクロプラスチック ――埋立浸出水,各種焼却排水を中心として―― [10]……大下 和徹 364
PDF, 521KB [11]

海洋プラスチック課題の解決志向性リスクプロファイルと国際制度課題 [12]……大南 英雄・南部 博美・藤井 健吉 374
PDF, 3.3MB [13]

タイヤ摩耗粉じんの環境や人体に与える影響に関する調査・研究 [14]……柴田 唯志 386
PDF, 1.1MB [15]

バイオプラスチックにかかわるISO国際標準化動向 [16]……国岡 正雄 392
PDF, 1.5MB [17]

環境省・廃棄物資源循環学会共催シンポジウム報告

廃棄物処理システムにおける脱炭素化に向けた普及促進方策に係るシンポジウム
――令和3年度 第3回シンポジウム――……毛利 紫乃 402
PDF, 931KB [18]

廃棄物資源循環学会研究部会セミナー報告

ごみ文化・歴史研究部会 令和4年度第1回研究報告会
戦後日本における屎尿処理政策 ――処理方法の多様化と下水処理化の進展――……長岡 耕平 406
PDF, 170KB [19]

支部特集/支部だより

支部だより:オンライン会議システムを用いた研究発表会の実施について ――関東支部の試み――…… 408
PDF, 283KB [20]

書評

保坂 稔 著:再生可能エネルギーを活用したドイツの地方創生とその理念
――バイオエネルギー村における「価値創造」……原田 浩希 410
杉本裕明 著:ゴミを生き返らせる“なおとみ流”リサイクルのヒストリー……石垣 智基 411
(一社)日本有機資源協会 編:バイオマスプラスチック ――基礎から最前線まで知りつくす――……矢野 順也 412
PDF, 275KB [21]

要旨

マイクロプラスチックの陸域からの流出に関する国際動向・環境政策

長 谷 代 子*

【要旨】 2022年に開催された第5回国連環境総会において,プラスチック汚染を終わらせるための国際合意条約交渉の開始が決定された。
日本は,2019年G20で「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提唱するとともに,国内では関連法令や政策文書に基づき,マイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみの量・分布の実態把握,発生源の特定,生物・生態系影響評価等の科学的知見の集約,流出量インベントリの検討によって施策の基礎情報の整備を行なっている。また2022年に施行されたプラスチック資源循環促進法に基づき設計・製造から排出まで,ライフサイクルを通じた措置を講じるほか,ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン等を通じた地域等の連携強化や,普及啓発取組の促進も行なっている。
マイクロプラスチックを含むプラスチックごみの海洋への流出は喫緊の問題である。今後も3Rや廃棄物の適正処理に率先して取り組んできた課題解決先進国として,プラスチック汚染対策をさらに進めていく。


キーワード:海洋プラスチックごみ,マイクロプラスチック,プラスチック汚染,資源循環

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.326-331, 2022
原稿受付 2022.8.8

* 環境省 水・大気環境局 水環境課 海洋プラスチック汚染対策室

連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2
環境省 水・大気環境局 水環境課 海洋プラスチック汚染対策室  長谷 代子

海洋プラスチックごみ抑制につながる炭素循環の位置づけ

吉 岡 敏 明*

【要旨】プラスチック問題は,廃棄物問題にとどまらずに地球温暖化・環境保全に対するわれわれの取り組みが問われる象徴的な課題である。プラスチックはわれわれの日常生活において使い勝手が良く欠くことのできない素材という側面と,分解されにくいことや化石資源を原料としていることからくる環境負荷の側面を,どのようにバランスされるかが求められている。リサイクルには大きな期待が寄せられるが,それでも今までにないリサイクルのコンセプトが必要である。ここ最近の主要国の知的財産の傾向をみると技術開発の力点は前処理技術にある。分別されたものを回収するというよりは,むしろ多くの量を回収した後に,破砕,選別,洗浄,乾燥等の前処理技術の開発に力点が置かれている。ケミカルリサイクルでは海外の石油および石油化学工業が大きな投資をしはじめてきている。また,バイオマスプラスチックの原料として廃棄物は十分なポテンシャルを有しており,生分解性プラスチックの技術開発は顕著である。炭素循環という視点からみても,原料をリサイクル材やバイオマスに転換することへの期待は極めて高く,さらに進めるためには動脈産業と静脈産業の連携・融合が有効な取り組みとなる。


キーワード:プラスチック循環,ケミカルリサイクル,バイオプラスチック,動静脈産業連携

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.332-339, 2022
原稿受付 2022.9.12

* 東北大学大学院 環境科学研究科

連絡先:〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-07
東北大学大学院 環境科学研究科  吉岡 敏明

海洋プラスチックごみの流出抑制に資する劣化・微細化研究の取り組みと今後の展開

鈴 木   剛*・田 中 厚 資*・高 橋 勇 介*・倉 持 秀 敏*・大 迫 政 浩*

【要旨】 プラスチック (プラ) ごみによる海洋汚染は国際社会で対処すべき喫緊の課題となっている。課題解決に向けて,素材代替や発生抑制対策の優先順位の検討に資する発生源別の海洋流出量の推計 (流出インベントリ) が国内外で進められている。流出抑制対策の基礎となる流出インベントリの精緻化にむけては,発生源の同定を引き続き進めること,発生源から海洋までの流出過程における挙動や運命を理解することが重要である。本論文では,(国研)国立環境研究所で実施中のプラの劣化・微細化挙動に関する研究と劣化・微細化と含有化学物質の挙動に関する研究について概説する。具体的には,プラごみのマテリアルリサイクルにおける劣化・微細化挙動に関する研究,陸域におけるプラごみの劣化・微細化挙動に関する研究,プラの劣化・微細化と含有化学物質の挙動に関する研究について,研究背景や動向を交えて実施内容や進捗を紹介し,流出インベントリの精緻化を通じた流出抑制に貢献するための研究展望を示す。


キーワード:海洋プラスチックごみ,劣化,微細化,流出インベントリ,含有化学物質

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.340-356, 2022
査読付展望論文
原稿受付 2022.7.21  原稿受理 2022.9.15

* (国研)国立環境研究所 資源循環領域

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研)国立環境研究所 資源循環領域  鈴木 剛

マイクロプラスチックの測定

吉 里 尚 子*

【要旨】 マイクロプラスチックに関する調査・研究はさまざまな機関で実施されつつあるが,その実態の詳細はいまだ明らかとはいえず,調査の拡充が求められる。海洋表層や河川における採取法および測定法については標準化や調和が進んでいるが,堆積物や生物体内に含まれるマイクロプラスチックならびに下水処理場や廃棄物処理施設等から発生するマイクロプラスチックの採取法および測定法については,標準化や調和するには至っていない。
本稿前半では,当社が2016年より携わってきた漂流マイクロプラスチックのモニタリング手法調和ガイドラインで示されているマイクロプラスチック測定法に加え,海洋表層以外のフィールド試料を扱う際の留意点についても触れながら紹介する。後半は,現行のマイクロプラスチック測定法の課題に対応すべく自社開発した粒子情報取得ツールならびにプラスチックに含まれる残留性有機汚染物質の分析について紹介する。


キーワード:マイクロプラスチック,測定,漂流マイクロプラスチックのモニタリング手法調和ガイドライン,簡易手法,化学分析

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.357-363, 2022
原稿受付 2022.7.29

* いであ(株) 環境創造研究所 環境生態部 兼 リスク評価部

連絡先:〒421-0212 静岡県焼津市利右衛門1334-5
いであ(株) 環境創造研究所 環境生態部 兼 リスク評価部  吉里 尚子

埋立処分場,および都市ごみ焼却施設から排出されるマイクロプラスチック
――埋立浸出水,各種焼却排水を中心として――

大 下 和 徹*

【要旨】 本稿では,埋立処分場および,都市ごみ焼却施設からの埋立浸出水,各種焼却排水中に含まれるマイクロプラスチック (MPs) について,個数濃度や形状,組成,粒径,排水処理での除去挙動を整理した。
まず,日本における埋立浸出水原水中MPsは,0.00023~0.00039個/Lで,海外諸国の直接埋立処分場に比較して1/105程度であり,焼却残渣埋立が中心であることによると推測された。都市ごみ焼却施設においては,多岐にわたる排水の種類や処理方式について概説し,国内の8つの施設における調査事例を整理した。プラント排水,洗煙排水等の原水にはMPsが0.0234~0.69個/L含まれ,これが主に砂ろ過により,0.00667~0.00167個/L程度まで高度除去されていることを示した。最後に濃度情報から排出量,すなわち排出インベントリの見積りへの展開について,排水量や排出先のアンケート調査の必要性に触れた。


キーワード:埋立地浸出水,洗煙排水,メタン発酵残渣,砂ろ過,排出インベントリ

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.364-373, 2022
原稿受付 2022.9.25

* 京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻

連絡先:〒615-8540 京都市西京区京都大学桂Cクラスター1-3-463
京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻  太下 和徹

海洋プラスチック課題の解決志向性リスクプロファイルと国際制度課題

大 南 英 雄*,**・南 部 博 美*,**・藤 井 健 吉*,**

【要旨】 海洋プラスチックごみ問題が地球規模で課題となっており,解決に向けた取り組みを世界全体で推進することが求められている。本稿では現代社会におけるプラスチックの基盤的位置付けを踏まえつつ,海洋に排出されるプラスチックごみの排出源プロファイル,マイクロプラスチックの多角的リスクプロファイル,排出経路評価や環境影響評価の考え方,リスク管理の社会実装に向けた優先順位付けの考え方,および国際規制動向等を,総説的にまとめて解説する。


キーワード:排出源プロファイル,リスク管理,リスク評価,リスク比較,レギュラトリーサイエンス

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.374-385, 2022
原稿受付 2022.9.22

* 花王(株) 研究開発部門 研究戦略・企画部
** 花王(株) 研究開発部門 リサイクル科学研究センター

連絡先:〒131-8501 東京都墨田区文花2-1-3 花王すみだ事業場
花王(株) 研究開発部門 研究戦略・企画部  藤井 健吉

タイヤ摩耗粉じんの環境や人体に与える影響に関する調査・研究

柴 田 唯 志*

【要旨】 タイヤ摩耗粉じんの環境や人の健康に与える影響について,タイヤ業界ではTIP (Tire Industry Project) において2006年から調査・研究を開始している。本誌ではその研究成果および結果について概要を述べるものである。
タイヤ摩耗粉じんとは,自動車の走行に必要な摩擦力を発生させるために,タイヤと路面が適切に摩擦する際に生じる微小な摩耗粉のことである。「暴露量×ハザード」というリスクアセスメントの基本にのっとり,暴露量については,タイヤ摩耗粉じんがどの環境域にどれくらい存在しているかを,ハザードについては,水生生物等に対する毒性を調査している。また,それらの調査をサポートするために,タイヤ摩耗粉じん量を測定するための定量方法や分析方法の開発も行なった。これまでの結果では,大気中の全PM10,PM2.5中に占めるタイヤ摩耗粉じん量は1%以下であり,藻,ミジンコ,小魚やマウスに対する深刻な影響はみられなかった。


キーワード:タイヤ摩耗粉じん,タイヤ粉,環境,健康

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.386-391, 2022
原稿受付 2022.8.1

* (株)ブリヂストン Gサステナビリティ部門

連絡先:〒104-8340 東京都中央区京橋3-1-1
(株)ブリヂストン Gサステナビリティ部門  柴田 唯志

バイオプラスチックにかかわるISO国際標準化動向

国 岡 正 雄*

【要旨】 バイオプラスチック ((海洋) 生分解性プラスチック,バイオマス由来プラスチック),マイクロプラスチック・ファイバーおよびリサイクルのプロセスにかかわるISO国際標準化動向を解説する。本ISO国際標準化は,主にISO/TC61 (プラスチック) 専門委員会/SC14 (環境側面) 分科委員会で実施されている。海洋生分解性プラスチックにかかわるISO規格は,12件が発行・審議中であり,日本からも3件が新規提案されている。マイクロプラスチック・ファイバー9件のISO規格が,発行・審議中で,1件が日本提案である。リサイクルに関しては,4件,発行・審議中で,2件が日本提案である。加えて,ISO規格の審議の体制,プロセス,規格を活用した認証制度を活用した当該製品等の市場導入促進システムについて説明する。


キーワード:バイオプラスチック,生分解性プラスチック,バイオマス由来プラスチック,マイクロプラスチック,リサイクル

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.5, pp.392-401, 2022
原稿受付 2022.8.2

* (国研)産業技術総合研究所 社会実装戦略部 標準化推進室

連絡先:〒305-8560 茨城県つくば市梅園1-1-1
(国研)産業技術総合研究所 社会実装戦略部 標準化推進室  国岡 正雄