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No.6 水俣条約に対応した国内の水銀対策と今後の課題

平成28年11月 第27巻 第6号

目次

巻頭言

パリ協定および持続可能な開発目標実施の視点からみた資源効率性・3Rに関する今後の課題……浜中裕徳 375
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特集 水俣条約に対応した国内の水銀対策と今後の課題

水銀に関する水俣条約実施のための日本の取り組み [2]……髙橋一彰 377
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水銀に関する水俣条約とその国内対応について [4]……山内輝暢 385
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自治体における水銀使用廃製品の回収事例集および分別回収ガイドラインについて [6]……元部 弥・岩佐ゆい子・藤川輝昭・山本 攻 393
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水銀含有廃棄物の処理処分の実際 [8]……藤原 悌 399
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水銀廃棄物の環境上適正な最終処分について [10]……石垣智基・柳瀬龍二 404
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水俣条約を踏まえた水銀大気排出規制 [12]……高岡昌輝 412
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廃棄物アーカイブシリーズ 『ゴミ戦争』の記録

第11回:大阪市におけるごみ処理対策の歴史 (前編)――ごみ焼却の歴史の概説と連続式機械炉の導入――……澤地  實・山本 攻 422
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支部特集/支部だより

支部だより:関東支部施設見学会「平成28年度関東支部セミナー」開催報告…… 427
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書評

竹内恒夫 著:地域環境戦略としての充足型社会システムへの転換……中村恵子 429
井上恭介,NHK「里海」取材班 編著:里海資本論……高見澤一裕 430

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要旨

水銀に関する水俣条約実施のための日本の取り組み

髙 橋 一 彰*

【要 旨】 水銀に関する水俣条約について,日本は水銀による環境の汚染の防止に関する法律や大気汚染防止法の一部を改正する法律をはじめとしたさまざまな法令や政策の整備を進め,2016(平成28)年2月2日に条約を受諾した。水俣条約の実施のための法令により,大気排出の削減や水銀需要の減少が見込まれるところであるが,今後の水銀の需給バランスに影響するとみられる。今後の水銀の適切な管理の推進のため,マテリアルフローの充実を図ることが求められる。
また水俣条約は間もなく発効と予想されるところ,地球規模での水銀対策についてさまざまな取り組みが行われることが見込まれる。水俣病を経験した国である日本は,水俣条約の効果的な実施について重要な役割があるといえる。今後,国内制度の着実な運用を図っていくとともに,水俣条約締約国会議等における議論への貢献やさまざまな国との連携を図りつつ,途上国における取り組みの支援等を推進していくことが期待される。


キーワード:水銀,水銀に関する水俣条約,水銀による環境の汚染の防止に関する法律 (水銀汚染防止法),MOYAIイニシアティブ,MINAS (MOYAI Initiative for Networking, Assessment and Strengthening) プログラム

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.377-384, 2016
原稿受付 2016.9.30

* 環境省 環境保健部 水銀対策推進室

連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館
環境省 環境保健部 水銀対策推進室  髙橋 一彰

水銀に関する水俣条約とその国内対応について

山 内 輝 暢*

【要 旨】 水銀に関する水俣条約が2013(平成25)年10月に採択され,その国内担保法である「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」等が2015(平成27)年6月に公布された。本稿では,国内の水銀対策を考える上で水銀廃棄物の管理と同様に重要な上流の製品規制を中心に紹介する。
水俣病を経験したわが国は,水俣条約の的確かつ円滑な実施を確保するのみならず,水俣条約において規定された措置を上回るより強化された規制措置を実施することとした。
特定水銀使用製品については,その製造およびこれを部品として他の製品に組み込むことを規制する。特定の水銀,水銀化合物,水銀使用製品等の輸出入に関しても水俣条約を上回る措置を実施する。また,特定の製造工程において水銀等の使用を禁止する。採掘関連では,水銀の採掘および業として水銀等を使用する方法によって金の採取を行うことを禁止する。さらに,水銀使用製品に関する情報提供の責務を規定し,同規定の施行に先立って,事業者のためのガイドラインを策定した。


キーワード:水銀に関する水俣条約,水銀による環境の汚染の防止に関する法律 (水銀汚染防止法), (特定) 水銀使用製品

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.385-392, 2016
原稿受付 2016.9.29

* 経済産業省 製造産業局 化学物質管理課

連絡先:〒060-0042 100-8901 東京都千代田区霞が関1丁目3番1号
経済産業省 製造産業局 化学物質管理課  山内 輝暢

自治体における水銀使用廃製品の回収事例集および分別回収ガイドラインについて

元 部   弥*・岩 佐 ゆい子*・藤 川 輝 昭**・山 本   攻**

【要 旨】 2013(平成25)年10月「水銀に関する水俣条約」が採択されたことを受けて,環境省では市町村による一般廃棄物中の水銀使用製品の適正な回収を促進するため「市町村等における水銀使用廃製品の回収事例集」をとりまとめた。また,これらの事例を参考として「家庭から排出される水銀使用廃製品の分別回収ガイドライン」を2015(平成27)年12月に定めた。回収事例のプロモーションビデオも作成し,自治体への周知を行い水銀使用廃製品の回収向上を図るため全国3カ所にてセミナーを開催した。


キーワード:水銀使用廃製品,市町村,事例集,ガイドライン,分別回収

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.393-398, 2016
原稿受付 2016.10.6

* 元 環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課
** (株)エックス都市研究所 大阪支店

連絡先:〒532-0011 大阪市淀川区西中島5-9-1 新大阪花村ビル8階
(株)エックス都市研究所 大阪支店  藤川 輝昭

水銀含有廃棄物の処理処分の実際

藤 原   悌*

【要 旨】 水銀含有廃棄物処理事業を中心として1973(昭和48)年に野村興産(株)を創立し,現在では年間27,000tonの廃棄物から50ton以上の水銀をリサイクルしている。今後水俣条約発効により水銀需要が減少することが予想されるが,それに伴い発生する余剰水銀の処理が必要となることが予想され,現在長期保管や最終処分について国内外で検討が行われている。ここではこれまでの水銀廃棄物処理事業について説明するとともに,現在検討中である水銀化合物として安定な形態である硫化水銀による安定化・固型化処理について紹介する。


キーワード:水銀,処理,安定化,固型化

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.399-403, 2016
原稿受付 2016.9.30

* 野村興産(株)

連絡先:〒103-0012 東京都中央区日本橋堀留町2丁目1番3号
野村興産(株)  藤原 悌

水銀廃棄物の環境上適正な最終処分について

石 垣 智 基*・柳 瀬 龍 二**

【要 旨】 水銀および水銀化合物に関する環境安全性を長期的に担保可能な最終処分システム体系の整備が求められている。廃水銀等は排出時点の水銀濃度と移動性が高く,化学的な安定化と物理的な封じ込めによるリスク低減が必須である。その上で,高い遮蔽性と持続的な処分容量確保の観点から,遮断型処分場だけでなく管理型処分場を活用した安全な処分が検討されている。水銀含有ばいじん等は,安全性の観点からの管理基準策定と再生利用を阻害しない運用を通じて,社会全体での安全で合理的な管理が可能になると考えられる。水銀使用製品廃棄物は,市中の製品回収や安定型処分場への搬入防止等,汚染発生を未然に防ぐ方策が図られる。処分環境下における無機水銀の有機態転換によるリスク増加可能性についても,適切な処分場管理によって抑制できる。長期的には水銀の移動は数千年単位まで遅延可能であるが,人工構造物の機能の寿命を考慮し,自然地盤等の能力も活用した多重安全システムを構築する必要がある。


キーワード:水銀廃棄物,最終処分,安定化・固型化物,アルキル化

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.404-411, 2016
原稿受付 2016.10.26

* (国研)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 国際廃棄物管理技術研究室
** 福岡大学 環境保全センター

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 国際廃棄物管理技術研究室  石垣 智基

水俣条約を踏まえた水銀大気排出規制

高 岡 昌 輝*

【要 旨】 水銀は有害大気汚染物質の優先取組物質として排出抑制に取り組まれてきたが,規制値はこれまで存在しなかった。水銀に関する水俣条約を確実に,かつ円滑に実施するため,排ガス中の水銀に対する規制が近年議論され,大気汚染防止法が改正された。排ガス中の水銀濃度は一定の変動があることから,平常時における排出口からの水銀の平均的な排出状況を捉えた規制を行うことが妥当とされ,実態調査に基づいてBAT/BAP (利用可能な最良の技術/最良の慣行) を想定した規制値が定められた。廃棄物焼却施設については,水銀を確実に扱う施設とそれ以外で異なる規制値が設定され,前者は新設が50μg/Nm3,既設が100μg/Nm3に,後者は新設が30μg/Nm3,既設が50μg/Nm3に設定された。ガス状水銀に加え粒子状水銀も測定対象とされ,水銀濃度には変動があることから規制値を上回る水銀濃度が検出された場合,再測定を行った上で複数回の平均値により評価することとなる。


キーワード:水銀,排ガス,BAT/BAP (利用可能な最良の技術/最良の慣行),規制値,廃棄物焼却

廃棄物資源循環学会誌,Vol.27, No.6, pp.412-421, 2016
原稿受付 2016.10.21

* 京都大学大学院 地球環境学堂

連絡先:〒615-8540 京都市左京区京都大学桂C-1-3-461
京都大学大学院 地球環境学堂  高岡 昌輝