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No.3 リチウムイオン電池の資源性と将来展望
 

No.3 リチウムイオン電池の資源性と将来展望

令和4年5月 第33巻 第3号

目次

巻頭言

脱炭素転換・資源循環:カギを握るは生活者……西岡 秀三 173
PDF,330KB

特集 リチウムイオン電池の資源性と将来展望

車載用リチウムイオン電池にかかわる資源問題……山末 英嗣・光斎 翔貴 175
PDF,545KB

使用済みリチウムイオン電池からの資源分離回収技術……所  千晴 181
PDF,1MB

自動車の電動化に伴うリチウムイオン電池リサイクルおよび廃棄の課題と業界の取り組み……橋本 英喜 188
PDF,1.5MB

セメント製造工程を活用したリチウムイオン電池のリサイクル技術……小松 浩平・境 健一郎・飯野 智之 196
PDF,1.2MB

電池関連制度の海外動向に関する考察 ――EUのリチウムイオン電池関連制度を中心として――……齋藤 優子・白鳥 寿一 204
PDF,500KB

リチウムイオン電池の循環・廃棄過程における火災等の発生と課題……寺園  淳 214
PDF,1.7MB

電池の適材適所 ――電池イノベーションの指針として――……八尾  健 229
PDF,539KB

会議報告

第8回3R国際会議 (3RINCs 2022) 概要報告……浅利 美鈴・築地  淳 237
PDF,410KB

環境省・廃棄物資源循環学会共催シンポジウム報告

廃棄物処理システムにおける脱炭素化に向けた普及促進方策に係るシンポジウム ~令和3年度第2回シンポジウム~ ……毛利 紫乃 242
PDF,459KB

廃棄物資源循環学会若手の会セミナー報告

廃棄物資源循環学会ならびに環境技術学会「若手の会」合同セミナー 若手が学ぶ衛生工学 ~各分野の役割と課題~ ……矢野 順也 246
PDF,403KB

支部特集/支部だより

支部だより:北海道支部「第32回研究発表会・見学会」開催報告…… 248
PDF,353KB

書評

山本康正 著:世界を変える5つのテクノロジー ――SDGs,ESGの最前線……釜田 陽介 250
村上信明 著:雑説 技術者の脱炭素社会……東條 安匡 251
PDF,186KB

要旨

車載用リチウムイオン電池にかかわる資源問題

山 末 英 嗣*・光 斎 翔 貴*

【要 旨】 次世代自動車の普及に伴い,リチウムイオン電池 (LIB) を代表とする車載用バッテリーの需要が増加している。車載用リチウムイオン電池の製造に伴う鉱物資源の影響をライフサイクルの視点から評価している研究は増加しつつあるが,岩石圏の改変まで考慮した例はほとんど存在しない。本稿では,車載用リチウムイオン電池の製造について,採掘活動量を定量化できる指標である「関与物質総量 (TMR)」を用いて評価した結果について報告する。


キーワード:リチウムイオン電池 (LIB),関与物質総量 (TMR),土地改変,ライフサイクル分析,採掘活動

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.175-180, 2022
原稿受付 2022.4.14

* 立命館大学 理工学部

連絡先:〒525-8577 滋賀県草津市野路東1丁目1-1
立命館大学 理工学部  山末 英嗣

使用済みリチウムイオン電池からの資源分離回収技術

所   千 晴*, **

【要 旨】 使用済みリチウムイオン電池からコバルト,ニッケル,銅等を回収するための分離プロセスを概観した。現在リサイクルプロセスの主流となりつつある焙焼プロセスが,安全上,また分離の効率上,重要な役割を果たしていることを示した。さらに,粉砕や物理選別からなる物理的分離プロセスによって,ブラックマスと呼ばれる正極活物質と,銅,鉄,アルミニウムに分離され,分離された正極活物質はさらに酸浸出や溶媒抽出によってコバルトやニッケルに分離されるフローを紹介した。また,サーキュラー・エコノミーの概念にもあるように,内側の資源循環ループを創成すべく焙焼なしの分離プロセスが検討されていることを紹介するとともに,筆者らが取り組んでいる電気パルス法によるアルミニウムと正極活物質粒子との分離技術開発を紹介した。


キーワード:前処理,リサイクリング,特殊粉砕,電気パルス,単体分離

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.181-187, 2022
原稿受付 2022.3.26

* 早稲田大学 理工学術院 創造理工学部
** 東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻

連絡先:〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 所 千晴

自動車の電動化に伴うリチウムイオン電池リサイクルおよび廃棄の課題と業界の取り組み

橋 本 英 喜*

【要 旨】 自動車メーカー各社による製品電動化の加速により今後相当量の高電圧バッテリーが必要になってくる。そのような中,リチウムイオン電池 (以下,LiB) は有力候補であり,既にハイブリッド車 (以下,HEV) に大量に搭載されている。
今後2023年頃にはHEV上市から10年が経過し,それらが商品としての寿命を終え,大量廃棄時代を迎えようとしている。その際に予想される社会環境側面と資源側面双方のリスクを回避すべく,本田技研工業(株)はLiBの適正処理の手法として,低コストかつ低消費エネルギーな分解・材料分別回収および希少資源のニッケル(Ni) コバルト(Co) 合金再資源化技術を,東北大学 柴田悦郎氏による学術指導のもと,松田産業(株)と日本重化学工業(株)とともに開発してきた。今回はその開発に向けた検討内容について報告する。


キーワード:自動車,電動化,リチウムイオン電池 (LiB),資源,リサイクル

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.188-195, 2022
原稿受付 2022.3.11

* 本田技研工業(株) カスタマーファースト本部 資源循環推進部

連絡先:〒351-0188 埼玉県和光市本町8-1
本田技研工業(株) カスタマーファースト本部 資源循環推進部  橋本 英喜

セメント製造工程を活用したリチウムイオン電池のリサイクル技術

小 松 浩 平*・境  健 一 郎**・飯 野 智 之***

【要 旨】 2050年カーボンニュートラル必達のためには蓄電池 (LIB) を最大限活用する必要があるが,素材の開発やリサイクル等の資源循環を含めた電池サプライチェーン全体の強化が必須となる。LIBの処理においては,発火等の安全面での懸念がある他,適切な処理をしないと金属資源を回収できないことから,安全で効率的なリサイクルシステムの構築が鍵となる。太平洋セメント(株)(当社) と松田産業(株)は2011年よりセメント製造設備を活用したLIBのリサイクル技術の開発を進めており,2017年には当社グループ会社である敦賀セメント(株)内に焙焼設備を併設し,世界初となるセメント製造工程を活用した実証試験を開始した。2020年からは産業廃棄物として排出されるLIBのリサイクル事業を実施しており,これまでに40種を越える車載用の大型LIBや定置用LIBを焙焼した。今後も本システムのさらなる規模拡大による『低環境負荷処理』『金属資源循環』を通じ,LIBの資源循環に貢献したい。


キーワード:LIBリサイクル,安全性,セメント製造設備,資源循環,焙焼

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.196-203, 2022
原稿受付 2022.3.30

* 太平洋セメント(株)中央研究所 資源・循環研究部
** 松田産業(株) 金属・環境営業本部 営業企画推進部
*** 太平洋セメント(株) 環境事業部 営業企画グループ

連絡先:〒285-8655 千葉県佐倉市大作2-4-2
太平洋セメント(株) 中央研究所 資源・循環研究部  小松 浩平

電池関連制度の海外動向に関する考察――EUのリチウムイオン電池関連制度を中心として――

齋 藤 優 子*・白 鳥 寿 一*

【要 旨】 リチウムイオン電池 (LIB) は今後ますます市場拡大が見込まれ,将来の廃棄量増大が懸念されることからその資源循環のあり方に国際的な関心が高まっている。そうした中で近年,欧州連合 (EU) ではサーキュラーエコノミーを目指した資源循環やカーボンニュートラル推進と関連づけたリチウムイオン電池にかかわる制度の促進の動きがみられる。
本稿ではEUの電池関連制度の変遷を概観し,フランスの電池指令の運用実態を事例として紹介する。


キーワード:リチウムイオン電池 (LIB),電池指令,回収システム,電池リサイクル

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.204-213, 2022
査読付展望論文
原稿受付 2022.4.1  原稿受理 2022.5.3

* 東北大学大学院 環境科学研究科

連絡先:〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-20
東北大学大学院 環境科学研究科  齋藤 優子

リチウムイオン電池の循環・廃棄過程における火災等の発生と課題

寺 園   淳*

【要 旨】 近年,リチウムイオン電池は多くの電気製品や自動車に使われており,日常生活に欠かせないものとなっている。一方で,粗大ごみ・不燃ごみを処理する一般廃棄物処理施設やリサイクル施設での火災等が増加している。リチウムイオン電池は資源有効利用促進法に基づく自主回収の対象ではあるが,対象外の品目,電池一体型製品,回収率の目標がないことなど,多くの課題がある。リチウムイオン電池のマテリアルフローに関しては,年間排出量約1.6万ton (2019年) とする環境省推計がある一方,排出先の情報が限られており,処理施設に混入する量の推計精度を向上させる必要がある。火災等の発生を背景として,環境省は排出状況や自治体の先進事例を調査して「リチウム蓄電池等処理困難物対策集」をとりまとめ,経済産業省でも資源有効利用促進法の在り方に関する検討を行なってきた。今後の課題として,安全確保を考慮した回収の責務と意義の見直しの必要性を論じた。


キーワード:リチウムイオン電池,火災等,資源の有効な利用の促進に関する法律 (資源有効利用促進法),自主回収,安全

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.214-228, 2022
原稿受付 2022.4.22

* (国研) 国立環境研究所 資源循環領域

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研) 国立環境研究所 資源循環領域  寺園 淳

電池の適材適所――電池イノベーションの指針として――

八 尾   健*

【要 旨】 電池は身近にありながら,その原理がよく知られているとはいえず,ブラックボックス化しており,これが電池イノベーションの方向を迷わせる原因となっている。その観点から,まず電池発電の原理について解説する。そこから,「反応するものは何でも電池になる」ことがわかる。電池の成否を決めているのは「実用性」であり,その要件には,起電力や充放電サイクル寿命や安全性,さらにはコストやリサイクル等が含まれる。「実用性」の要件は非常に厳しく,歴史的にこれまでごくわずかな種類の電池が実用化したに過ぎない。電池各種について性能を比較し,その長所と短所を実際の用途とすり合わせながら,最も適合するものを,適材適所に選択していくことが,重要である。新たに開発された高性能鉛蓄電池は,用途によっては,リチウムイオン二次電池に置き換わる可能性を有している。以上の議論を総合して,電池イノベーションの目指すべき方向について提案する。


キーワード:電池イノベーション,電池発電,実用性,リチウムイオン二次電池,鉛蓄電池

廃棄物資源循環学会誌,Vol.33, No.3, pp.229-236, 2022
原稿受付 2022.3.26

* 京都大学 名誉教授

連絡先:〒576-0053 大阪府交野市郡津2丁目28-12
京都大学 名誉教授  八尾 健

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