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平成30年度第2回勉強会を開催しました

平成30年度第2回勉強会を開催しました

廃棄物資源循環学会リサイクルシステム・技術研究部会 平成30年度第2回勉強会

「実用化が期待される炭素繊維リサイクルの現状」

◆日時:平成30年9月13日(木)8:45~10:15

◆会場:名古屋大学東山キャンパス ES総合館2階 ES024講義室(第4会場)

 

炭素繊維は、ポリアクリルニトリル繊維等を原料として、高温で炭化させて作った繊維です。軽くて強いという特徴を有し、樹脂などと組み合わせた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空機材料としても利用されるなど、大きな成長が期待されています。

今年度の研究発表会が開催された中部地区は、航空産業、自動車産業、繊維産業等の炭素繊維に関連する企業が集積し、今後炭素繊維やそのリサイクル関連産業の中心地と言えます。そこで、リサイクルシステム・技術研究部会では、最先端の炭素繊維のリサイクル技術開発に関っている4人の方々にそれぞれの立場から今後の展望を語っていただきました。

以下、講演要旨をご報告します。(分析:部会事務局)

 

■講演1「再生CFの利用拡大について」木山雅之 氏(経済産業省 中部経済産業局)

木山氏からは、炭素繊維について、主な用途と将来的な市場、それに伴うリサイクルの必要性と課題などを総合的にご紹介いただきました。

炭素繊維の市場規模は拡大基調にあり、航空機・自動車分野を中心に、世界の需要は年15%ずつ上昇しており、2030年には65万トン以上、約4.5兆円の市場規模が見込まれています。将来的なCFRPの活用拡大により、様々なグレードの製造工程端材や廃製品が排出されることが想定され、その処理が課題となります。様々なリサイクル法が研究されているが、リサイクル材を活用するには、物性保証をするための評価・測定法の開発、表示法の構築などが必要です。

EUサーキュラーエコノミー行動計画では、2017年にプラスチック戦略を構築し、経済成長、バージン原料の利用抑制・CO2排出抑制とのデカップリングを実現するとともに、海洋ごみなどプラスチックの流出を防止することが掲げられています。我が国においても、本年7月からす循環経済ビジョン研究会が立ち上がり、31年1月に中間報告が出される予定ですが、炭素繊維リサイクルはこの中の重要事項となっています。炭素繊維のリサイクルについても社会的な要請であり、資源を循環させる中で新たなサービスや雇用も生み出すことが期待されます。国では、31年度予算で試験評価法の検討を計上しています。

 

■講演2「リサイクル炭素繊維の再資源化課題」堀田裕司 氏(産業技術総合研究所 構造材料研究部門)

堀田氏からは、炭素繊維の再資源化について、具体的な方法と課題についてご紹介いただきました。

CFRPの需要は順調に伸びているが、廃棄物規制や処分場の容量不足は、市場拡大の障壁となります。我が国の炭素繊維や関連材料の国際競争力の維持・向上のためには、リサイクルシステム(回収、資源化技術、評価方法、活用方法、規格等)の構築が不可欠です。

CFRPからの炭素繊維を回収するための技術にはサーマルリサイクルとケミカルリサイクルがあり、現在は低コストな熱分解法が主流です。しかしながら、どの方法を用いてもリサイクルを繰り返すうちに不連続な繊維となってしまいます。また、リサイクルの工程で短繊維化すること、繊維物性の劣化なども課題です。このため、規格・評価法の確立が必要です。

炭素繊維の評価のためのJIS規格が規定されていますが、短繊維に対応できない、繊維長にムラがあり、何本計測すれば保証できるのかが不明、異物・樹脂残渣の影響などの理由によって、不連続なリサイクル炭素繊維のデータを正確に得ることができていません。リサイクル炭素繊維を活用するためには、物性保証として簡便かつ低コストな評価技術の開発が必要です。

 

■講演3「CFRPおよびリサイクルCFRPの自動車への展開」三国敦 氏(トヨタ自動車(株))

三国氏からは、車体の軽量化に向けたCFRPへの期待と課題についてご紹介いただきました。

自動車の車体は、衝突対応などのため重く大きくなっている。車体を軽量化することは、燃費だけでなく、快適な装備がたくさん乗せられる、加速性能等の楽しさの実現のためにも不可欠な事項である。

軽量材の活用は、軽量化のためのひとつのアプローチである。部材の受ける力に応じて適した材料を選定していく必要がある。合理的な最小限のスペックを決めて軽い材料を使うことになり、CFRPは骨格より板材に使う方が有効である。初期はスポーツ車のルーフやフードに使用してきたが、最近では、量産車(プリウスPHV)のバッグドアインナーや、燃料電池車(MIRAI)の高圧水素タンク、燃料電池スタックフレームなど、環境車へと適用している。

CFRPの適用にあたっては様々な課題もある。コスト低減はもちろんのこと、走行時のCO2排出量を低減するために、製造段階でのCO2が増加してはならない。また、資源循環の観点からも、リサイクル炭素繊維の活用が期待される。

 

■講演4「CFRPのリサイクルの実用化事例」板津秀人 氏(カーボンファイバーリサイクル工業(株)

 

板津氏からは、炭素繊維複合材料の再生加工を行う民間企業の立場からお話いただきました。

同社のリサイクル事業は、瓦焼き技術を応用した二段階熱分解法によるもので、CFRPの新品生産時の1/30という、圧倒的な省エネ性が特徴です。第一段階(炭化炉)で樹脂をガス化させ、二段階目(キルン)で樹脂を飛ばすと、繊維だけ残ります。二段階目のエネルギーは、現在は電気ですが、一段階目の廃熱を利用することを目指しています。

二段階熱分解の強みとしては、①強度が強く解体しにくいバンパーや肉厚で金属ライナーを使ったCFRPタンクなどもカットせずに丸ごと入れられ、②樹脂を抜いた後で切断することにより低コストで炭素繊維を取り出せること、③無酸素状態のため金属も回収できること、④炭素繊維を長いまま回収できること等があります。

リサイクル事業化のポイントの一つである品質保証について、同社ではユーザー・岐阜大学と作り上げた品質保証体制を構築していますが、リサイクル炭素繊維の平均的な強度は、バージン材の85%程度となっています。

炭素繊維生産量が世界シェアの約7割を占める日本で、炭素繊維を取り扱う一大集積地である中京圏には、炭素繊維リサイクル産業の集積も期待されます。

 

■パネルディスカッション「CFRPのリサイクルの実用化事例」モデレーター(加茂徹、産業技術総合研究所 環境管理研究部門)

経済性を踏まえたリサイクルの見通し、評価法を含む技術的な課題、リサイクル炭素繊維の需要の確保などについて、活発な質疑が行われまし。また、循環材として事業化していくためには市場に出回った後の回収システムの必要性も示唆されました。

60年前に日本で開発され、世界シェアも高い炭素繊維について、産業振興のためにも今後様々な関係主体が一丸となって取り組んでいくことが期待されます。

以上

 

 

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