2025.5.29 2025年度春の研究討論会にてセミナーを開催(川崎)
開催報告
2025年5月29日に2025年度 廃棄物資源循環学会 春の研究討論会にて、セミナー「災害廃棄物発生量推計の研究動向」を開催いたしました。約67名の皆様にご参加いただきました。
プログラム
開催挨拶 鈴木慎也氏(福岡大学)(資料PDF)
話題提供「災害廃棄物の発生量推計:実務と研究の現状」 多島良氏(国立環境研究所)(資料PDF)
話題提供「災害廃棄物処理のシステム評価:発生量推計によってできること」 田畑智博氏(神戸大学)(資料PDF)
話題提供「災害廃棄物発生量シミュレーション」 坂井健一氏(パシフィックコンサルタンツ)(資料PDF)
パネルディスカッション「研究動向の整理と今後の展開」
コーディネーター: 浅利美鈴氏(総合地球環境学研究所)
パネリスト:多島良氏(国立環境研究所)、田畑智博氏(神戸大学)、坂井健一氏(パシフィックコンサルタンツ)
概要
1.はじめに
災害廃棄物研究部会長の鈴木慎也氏(福岡大学)から、令和7年度研究討論会の趣旨について、大規模な地震や水害による被害が年々発生している状況で、災害廃棄物処理における災害廃棄物発生量推計が重要であるとの意見を踏まえて、テーマを決めたことが説明された。参加者は、会場参加36名、オンライン参加31名であった。
2.講演
多島良氏(国立環境研究所)より、発生量推計に関する研究動向について、研究論文が2012年以降蓄積され、一部論文が自治体の推計手法に用いられていること、国際的には過去20年間で22種類の手法が開発されていることが説明された。統計モデリングによる推計、発生量原単位の調査研究、ストックから予測する研究、画像解析を用いた研究があり、目的に応じて手法を用いるとよいとされた。
田畑智博氏(神戸大学)は、人口や土地利用状況等の地域特性が異なることを考慮し、ストックから災害廃棄物発生量の空間分布や、地域のポテンシャルを把握し、仮置場必要性面積、処理能力から広域処理の必要性を検討したことが発表された。ストックによるアプローチを空き家の除却、不用品リユース等、平時の廃棄物処理にリンクさせて考えるとよいと示された。
坂井健一氏(パシフィックコンサルタンツ㈱)は、横浜市の協力を得て、国土交通省の3D都市モデルを活用し、地震時の災害廃棄物発生量推計及び仮置場の具体的な検討に取り組んだ成果が発表された。地震の被害情報をGISに読み込み、建物1棟ずつの災害廃棄物発生量検討を行った。仮置場候補地として225か所を選定し、を町丁目ごとに割り当てて市内全域で検討し過不足を把握した。今回の検討結果による精緻な情報を用いると民間工場用地を活用するなど、他部局との対話にも利用できることが示唆された。
3.パネルディスカッション
パネルディスカッションは、浅利美鈴氏(総合地球環境学研究所)をコーディネーターとして進められた。
ストックからアプローチすることで一般化しやすく、海外でも使用しやすいと考えられ、統計的手法との誤差を検討できるとよい。3D都市モデルの検討では、初動時に片付けごみを受け入れる面積があるかが検討されるとよりリアルになり、地方部で瓦屋根が多い、倉庫が多いなどを反映できるとよいとコメントされた。また、仮置場が設置できない場合に戸別収集とする判断など災害廃棄物処理マネジメントに3D都市モデルが利用できる可能性が示唆された。
発生量推計の研究を、空き家対策やアスベスト問題など平時の対応が重要な事項の検討につなげることが肝要であり、災害リスクを踏まえて平時から施設整備、施設集約化、人口減少に対して収集運搬のリソースの確保など、廃棄物処理システムの在り方、循環経済の在り方を考える重要性が指摘された。また、事前復興が、都市政策に欠かせない視点であることが指摘された。
質疑応答では、災害廃棄物処理のシミュレーションによる最適化計算は難しくないため、何(処理期間、コスト、環境等)を最適化するかを含めて研究に取り組めるとよい。コンクリートがらの発生量が多いことから、リサイクル用途や保管・処理期間を考えるべきである。災害廃棄物処理は、地域によって進み方が異なるが、国の施策に対して廃棄物資源循環学会からもコミットしたいとの意見があった
住んでいる人の属性による発生量への影響について質問があり、高齢者世帯の延べ床面積が広く、ストック量は高齢者の方が多いため属性を精緻にみることも大事とのコメントがあった。
研究者たちが国の災害廃棄物処理指針改定に携わっていることから、これらの研究成果の積み上げが社会実装につながる方策はすでにあり、さらに、自治体の災害廃棄物処理計画における発生量推計を精緻化するため3Dモデルを活用するとよいこと等について自治体へ情報発信していくとよいとの指摘があり、発生量推計とその展開について具体的な提言が得られた。
作成:中山育美(公財)廃棄物・3R研究財団