No.3 リペア・リユースと循環経済
令和6年5月 第35巻 第3号
目次
巻頭言
ICT (情報通信技術) と2R……山川 肇 151
特集 リペア・リユースと循環経済
日本の修理行動と政策の概要 ――「リペア・リユースと循環経済」特集にあたって――……山川 肇 153
アジアにおける修理する権利 ――現状と課題――……小島 道一 161
欧州循環経済政策における修理 (リペア) 施策と関連取組……粟生木千佳 167
米国における修理する権利論と政策動向……椎名 葉 176
修理する権利を取り戻すiFixitの活動……Elizabeth Chamberlain・Kyle Wiens 187
循環型社会の実現にむけた取り組み・複合機の再生事業……佐藤多加子 198
リフォーム・リペア企業の実際 ――(株)ビリーブの事例――……高須 康之 207
ごみ処理施設による啓発のための修理・リユースの取り組み……花嶋 温子・鈴木 榮一・東 飛郎・江尻 京子・高根 美保・
柳 富哉・関野 正 212
会議報告
第10回3R国際会議 (3RINCs 2024) 概要報告……金地 晃史・森田 宜典・安藤 悠太・小柴絢一郎・浅利 美鈴 220
令和5年度廃棄物資源循環学会セミナー報告
令和5年度 第3回セミナー
動脈産業と静脈産業の連携によるサーキュラーエコノミーの加速に向けて……長谷川 亮 225
廃棄物資源循環学会研究部会報告
リサイクルシステム・技術研究部会 講演会
「衣料・ファッション製品のリサイクル」報告……加茂 徹 228
支部特集/支部だより
支部だより:関西支部「大学生・大学院生のための施設見学会」開催報告…… 230
書評
高槻成紀 著:もう木を伐らないで ――玉川上水の生物多様性のために――……釜田 陽介 232
浅田隆志,佐藤理夫 編著:カーボンニュートラル社会実現のための 資源・エネルギー学……石垣 智基 233
浅利美鈴 編著:里山 “超” SDGsことはじめ ――京北での2年間の活動の軌跡と未来への誘い――……中村 貴子 234
諸富 徹,藤野純一,稲垣憲治 編著:ゼロカーボンシティ ――脱炭素を地域発展につなげる――……矢野 順也 235
要旨
日本の修理行動と政策の概要――「リペア・リユースと循環経済」特集にあたって――
山 川 肇*
【要旨】 気候変動問題,資源制約等を背景として循環経済の実現が大きな課題になっている。その実現のためには長期使用の拡大が必要であり,こうした観点から,近年,欧米を中心に「修理する権利」が注目されている。本稿では,本誌で修理・リペアに関する特集を組むに至った背景と特集の各記事について概説する。加えて,リペアの抑制要因と対策の可能性について既往研究に基づいて紹介するとともに,家電,情報機器,衣類・生活用品,家具等各種製品について,日本の消費者の修理状況,ならびに直らなかった理由,しなかった理由に関する調査結果を報告する。「部品/材料がなかった」,「メーカーが修理に対応していなかった」,「修理しようとしても高すぎた」などが主な理由となっている。あわせて日本の修理に関する政策として,資源の有効な利用の促進に関する法律 (資源有効利用促進法),公正競争規約,民法の契約不適合責任制度,国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律 (グリーン購入法) 等について概説する。
キーワード:修理の実態,抑制要因,リペア政策,スペアパーツ,発生抑制
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.153-160, 2024
原稿受付 2024.4.22
* 京都府立大学大学院 生命環境科学研究科
連絡先:〒606-8522 京都市左京区下鴨半木町1-5
京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 山川 肇
アジアにおける修理する権利――現状と課題――
小 島 道 一*
【要 旨】 欧米での「修理する権利」に関する取り組みを受け,アジア諸国でも「修理する権利」に対する関心が高まり,法令に盛りこむ,あるいは,情報提供をする政府機関も出てきている。本稿では,アジア諸国における「修理する権利」に関する取り組みについて,国ごとに概観するとともに,「修理する権利」による長期利用が省エネルギー製品の普及を遅らせる可能性のあること,修理のための貿易に関して議論する。
キーワード:修理する権利,アジア,リファービッシュ,省エネルギー
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.161-166, 2024
原稿受付 2024..4.2
* (独)日本貿易振興機構 アジア経済研究所
連絡先:〒261-8545 千葉市美浜区若葉3-2-2
(独)日本貿易振興機構 アジア経済研究所 小島 道一
欧州循環経済政策における修理 (リペア) 施策と関連取組
粟生木 千 佳*
【要 旨】 本稿では,EU・一部の欧州国の修理に関する各種施策や取り組みについて整理を行い,修理事業・修理行動のさらなる促進に向けて,修理の障壁と政策とのギャップについて触れた。
主な施策としては,製品要件への修理可能性の適用,修理可能性や修理へのアクセス方法に関する情報開示,修理妨害行為の禁止,修理による法定保証期間の延長,修理業者の情報開示による修理へのアクセスの改善,修理費用の補助等があげられよう。また,修理業者のアクセス改善や,製造・輸入業者のみならず,消費者との接点となる販売者に対しても情報開示等を求めており,バリューチェーン全体での修理促進策がはかられ,体系的な修理政策の枠組みができつつあるといえる。また,これらの施策は,修理促進の障壁となる製品設計や部品の入手可能性改善を通じた技術的要因や修理コスト等の経済的要因の解消,また,情報提供を通じた消費者の行動変容等につながりうると考えられる。
キーワード:資源効率性,循環経済,修理する権利,エコデザイン,製品持続可能性情報
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.167-175, 2024
原稿受付 2024.4.22
* (公財) 地球環境戦略研究機関 持続可能な消費と生産領域
連絡先:〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口2108-11
(公財) 地球環境戦略研究機関 持続可能な消費と生産領域 粟生木 千佳
米国における修理する権利論と政策動向
椎 名 葉*
【要 旨】 米国では21世紀に入り,「修理する権利 (“Right to Repair”)」法制化の動きが,合衆国連邦・各州のふたつのレベルで活発化している。「修理する権利」とは,製品の購買者 (所有者) や独立系 (製造元専属・指定ではない) 修理業者が「修理に必要な情報・部品にアクセスする権利」を指す。モノのデジタル化が大幅に進んだ今世紀において,なぜ,どのように「修理する権利」法制化の動きが活発になったのか,なぜ米国ではこれが競争法,消費者保護法,知的財産法を軸に展開されているのか,本稿ではこれらの点について,歴史的経緯と法的根拠の説明,および立法・行政・司法の異なる政府機関と消費者・修理業者に代表される民間当事者がどのように動いてきたのかを辿る。
キーワード:修理する権利,競争,消費者保護,知的財産,政策
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.176-186, 2024
原稿受付 2024.3.30
* 米国 ニューヨーク州・ニュージャージー州弁護士
連絡先:〒606-8522 京都市左京区下鴨半木町1-5
京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 山川 肇 (特集担当編集委員)
修理する権利を取り戻すiFixitの活動
Elizabeth Chamberlain*・Kyle Wiens*
【要 旨】 iFixitは,カリフォルニアの大学で設立されて以来,20年以上にわたってより修理可能な電子機器の普及を推進してきた。同社は,Apple製品の修理方法を手順ごとに説明するWebサイトとしてスタートしたが,現在では世界的な修理推進団体へと発展し,世界中で修理をしやすくする法制化を支援し,Google LLCやLenovo Corporationを含むメーカーと協力して,より修理可能な製品作りに取り組んでいる。この記事では,iFixitの歴史を振り返った後,世界的な「修理する権利」運動の成長 (米国,EU, アジアでの法制化等を含む) を説明し,修理推進上の残されたフロンティアについて述べる。
キーワード:修理する権利,修理可能性,電子機器,サーキュラー・エコノミー
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.187-197, 2024
原稿受付 2024.4.10
* iFixit
連絡先:1330 Monterey St. San Luis Obispo, CA 93401 U.S.A.
iFixit Elizabeth Chamberlain,(土井 みどり/日本語担当)
循環型社会の実現にむけた取り組み・複合機の再生事業
佐 藤 多加子*
【要 旨】 近年,サーキュラーエコノミーへの移行は,気候変動対策に次ぐ地球規模の課題であることが共通認識となっている。将来にわたり限りある資源を利用していくためには,天然資源の効率的・持続的な利用を可能にすることが不可欠であり,所有から利用,廃棄から循環への流れが加速している。リコーグループは,1994年に循環型社会実現のコンセプトとして「コメットサークルTM」を制定し,長期にわたりライフサイクル全体での資源の有効活用を推進し,循環型社会実現に向けた取り組みを進めてきた。本稿では,「循環型社会の実現にむけた取り組み・複合機の再生事業」と題し,循環型社会の実現のための指標・目標,具体的な取り組みとして複合機,プリンターの製品再生・部品再生事業,ならびに再生機の環境負荷低減について紹介する。また修理体制についてもふれる。
キーワード:サーキュラーエコノミー,3R (リデュース,リユース,リサイクル),再生事業,カーボンフットプリント,修理
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.198-206, 2024
原稿受付 2024.3.29
* (株)リコー ESG戦略部 ESGセンター
連絡先:〒143-8555 東京都大田区中馬込1-3-6
(株)リコー ESG戦略部 ESGセンター 佐藤 多加子
リフォーム・リペア企業の実際――(株)ビリーブの事例――
高 須 康 之*
【要 旨】 本稿では,筆者が運営しているリユース店3店舗の事例に基づき,需要の多い修理の内容や利用者の実態,またコロナ禍前後の利用者や修理内容の変化について報告する。コロナ前には冠婚葬祭用衣類等,高価な衣類のお直しや紳士革靴,婦人ピンヒール等の修理が多かったが,コロナ後にはこれらが激減した。高齢者のマインド変化やリモートワークの増加等が影響しているのではないかと考えられた。またコロナ禍で激減した需要は少しずつ回復してきているが,高齢者の客足の回復が遅れている。そこで,高齢者施設や個人宅を巡回訪問し,お直しを行うサービスを開始した。今後,他の支援ニーズにも対応する予定で,お直しの需要の掘りおこしのみならず,高齢者の安心・安全の確保にも貢献する事業としていく予定である。そのほか,修理サービスにおいてコミュニケーションが重要であること,次世代への技術の継承や経営改善等が今後の課題であることを述べる。
キーワード:リフォーム・リペア,リメイク,技術の継承,コロナの影響,高齢者
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.207-211, 2024
原稿受付 2024.4.8
* (株)ビリーブ
連絡先:〒173-0023 東京都板橋区大山町49-2
(株)ビリーブ 高須 康之
ごみ処理施設による啓発のための修理・リユースの取り組み
花 嶋 温 子*・鈴 木 榮 一**・東 飛 郎***,****・江 尻 京 子*****・高 根 美 保******・柳 富 哉*******・
関 野 正********
【要 旨】 ごみ問題の啓発のために,修理やリユースに実際に取り組んでいる施設は多い。まず,ごみ焼却工場のリサイクルコーナーに始まり,「リサイクルプラザ」として国の施設建設補助により,全国に広まった。家具・自転車・衣類・書籍・食器・おもちゃ・傘・家電等が修理やリユースの対象となった。しかし,家具の低品質使い捨て化等によって,全体としては縮小傾向にある。しかしながら,愛着のあるもの,由来のあるもの,上質なものが,今後の修理やリユースを牽引する可能性があることがわかった。
キーワード:環境学習施設,修理 (リペア),再利用 (リユース)
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.3, pp.212-219, 2024
原稿受付 2024.4.15
* 大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科,** (一社) 廃棄物資源循環学会 環境学習施設研究部会 事務局,*** 札幌市 リサイクルプラザ,**** NPO法人 環境り・ふれんず,***** 多摩ニュータウン環境組合 リサイクルセンター,****** NPO法人 エコライフはままつ,******* 京都市 南部クリーンセンター 環境学習施設 運営コンソーシアム,******** 国崎クリーンセンター啓発施設 ゆめほたる
連絡先:〒574-8530 大阪府大東市中垣内3-1-1
大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科 花嶋 温子