No.3. 小規模分散型生活衛生インフラの国内外の動向と今後の展望
令和7年6月 第36巻 第3号
目次
巻頭言
万博イヤーを,資源循環型社会へのターニングポイントに……浅利 美鈴 207
特集 小規模分散型生活衛生インフラの国内外の動向と今後の展望
グローバル・サニテーションの実現に向けた分散型生活衛生インフラの役割……原田 英典 209
浄化槽にかかわる技術的展開……蛯江 美孝 216
浄化槽システムの海外展開について……白川百合惠・雲川 新泌 222
令和6年能登半島地震における浄化槽被害と復旧……仁木 圭三 231
人口減少地域における小規模水・衛生インフラ……牛島 健 240
自己処理型トイレの処理技術,その課題と展望……岡城 孝雄 246
座談会「小規模分散型生活衛生インフラの国内外の動向と今後の展望」……日下部武敏 258
会議報告
第12回アジア太平洋3R・循環経済推進フォーラム(3R&CEフォーラム)の報告……袖野 玲子 264
支部活動報告
関西支部「大学生・大学院生のための施設見学会2024」開催報告…… 266
書評
吉田恵美子 著:想いはこうして紡がれる ── 「古着を燃やさないまち」を実現した33年の市民活動を通して伝えたいこと ──……原田 浩希 268
武内和彦,高橋康夫 監修 (公財)地球環境戦略研究機関(IGES)編:持続可能な社会づくりへの統合的アプローチ……大迫 政浩 269
谷口真人 編:シリーズ未来社会をデザインするⅠ 包摂と正義の地球環境学……所 千晴 270
要旨
グローバル・サニテーションの実現に向けた分散型生活衛生インフラの役割
原 田 英 典*
【要旨】 持続可能な開発目標において,狭義のサニテーションに留まらない包括的な生活衛生インフラの実現が,グローバル・イシューとなった。分散型生活衛生インフラの重要性は,農村のみならず,都市における包括的サニテーション(CWIS)イニシアティブの下,都市部においてもメインストリーミング化しつつある。一方,都市衛生サービスの中で主要な温室効果ガス(GHGs)の発生源でもある腐敗槽は,その在り方が問われる。近年では,水・衛生分野の気候レジリエンスの議論も活発化している。これら諸課題に対し,日本のし尿汲取と処理の普及は,短期間で生活衛生改善を実現する社会的なモデルとなる。独自に発達した浄化槽,し尿処理施設等のハードな技術のみならず,ソフトな技術・仕組みも含めた高度な分散型エコシステムは,大きな可能性を有する。災害対応先進国である日本の災害レジリエンスの知見は,気候レジリエンスの分野にも援用しうるであろう。
キーワード:CWIS,し尿汚泥管理,気候レジリエンス,し尿処理,分散型エコシステム
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.209-215, 2025
原稿受付 2025.3.13
* 京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科
連絡先:〒606-8501 京都市左京区吉田下阿達町46 京都大学稲盛財団記念館323
京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 原田 英典
浄化槽にかかわる技術的展開
蛯 江 美 孝*
【要旨】 浄化槽はわが国独自の分散型生活排水処理装置である。微生物の代謝を利用した生物学的処理を主体とし,住宅等から排出される生活排水を浄化し,環境への負荷を軽減している。2023年度末時点で1,177万人が利用している重要な社会インフラであり,下水道とともに汚水処理施設整備の一端を担っている。本報では,分散型のシステムとしての特徴である流入変動や保守点検,清掃等について確認する。さらに,国が構造を定めた構造例示型の浄化槽から,メーカーの独自技術を大臣が認定する性能評価型の浄化槽へと移り変わり,分散型に対応したコンパクト化,高度処理化,省エネ化等の技術が開発されてきた事例を紹介するとともに,消毒や汚泥処理,人口減少社会における維持管理等の今後の展開について所見を述べる。
キーワード:浄化槽,分散型,構造基準,性能評価,維持管理
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.216-221, 2025
原稿受付 2025.3.5
* (国研)国立環境研究所 資源循環領域
連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研)国立環境研究所 資源循環領域 蛯江 美孝
浄化槽システムの海外展開について
白 川 百合惠*・雲 川 新 泌*
【要旨】 日本の浄化槽システムは,優れた分散型汚水処理施設として世界的にも認められるようになり,ここ10年間に海外での浄化槽の設置基数が急速に増え,開発途上国だけでなく先進国においても普及が進んでいる。その背景には,近年,開発途上国では経済発展に伴い都市化と人口増加が進む一方,大規模な下水道施設の整備が進まず,分散型汚水処理施設に対する需要が高まっていること,加えて,これまで日本政府,浄化槽メーカーおよび関連企業が浄化槽システムの海外展開に積極的に取り組んできたことがあげられる。同時に,浄化槽システムの海外展開が進むにつれ,分散型汚水処理の国際標準化も重要な課題となっており,日本における浄化槽システムの知見を国際規格に反映させる取り組みが行われてきている。
キーワード:浄化槽,浄化槽の海外展開,分散型汚水処理,国際標準化,ISO規格
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.222-230, 2025
原稿受付 2025.3.7
* (公財)日本環境整備教育センター 浄化槽システム国際協力センター
連絡先:〒130-0024 東京都墨田区菊川2-23-3
(公財)日本環境整備教育センター 浄化槽システム国際協力センター 雲川 新泌
令和6年能登半島地震における浄化槽被害と復旧
仁 木 圭 三*
【要旨】 2024(令和6)年1月1日に能登半島地震が発生した。各地の震度は志賀町,輪島市で震度7を記録したほか,能登半島北部一帯で震度6弱以上を記録し,家屋やライフラインに大きな被害を生じた。家屋等の被害が大きかった能登半島の市町では市町設置の浄化槽も多いが,この地震による浄化槽被害はこれまでの地震災害のなかでは最も被害率が高いといわれている。被害を受けた浄化槽の中には,槽の漏水等により使用できない,すなわち被災者が水洗トイレを使用できないこととなり,その復旧が急がれた。災害対応や復旧に多大の人材を要しているが,石川県の浄化槽関係者だけでは人材の不足が今も生じている。
本特集においては,これまで収集した情報等をもとに浄化槽被害の状況と復旧にむけた官民の活動状況について概説するとともに,活動事例を紹介する。
キーワード:能登半島地震,浄化槽,被害,復旧,対応
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.231-239, 2025
原稿受付 2025.2.26
* (公財)日本環境整備教育センター
連絡先:〒130-0024 東京都墨田区菊川2-23-3
(公財)日本環境整備教育センター 仁木 圭三
人口減少地域における小規模水・衛生インフラ
牛 島 健*
【要旨】 人口減少下における水・衛生インフラを今後どのように維持管理していくのかという問題は,すでにわが国にとって喫緊の課題となっている。特に,運営効率向上だけでは根本的な解決が難しいような,低人口密度地域の水・衛生インフラに対して,現実的な解決策の選択肢を示すことが求められている。本稿では,わが国においてまだ情報の少ない分散型や地域自律管理型のしくみについて,主に北海道における小規模水供給システムの実例を参照しながら,低人口密度地域における人口減少への適応策としての可能性と課題について整理する。また,すでに浄化槽による分散型のしくみが普及しているわが国の小規模衛生インフラの今後についても,人口減少下での資源循環という視点からその課題と可能性について整理する。
キーワード:人口減少,分散型,地域自律管理型,水と衛生,資源循環
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.240-245, 2025
原稿受付 2025.3.5
* (地独)北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所
連絡先:〒078-8801 北海道旭川市緑が丘東1条3丁目1-20
(地独)北海道立総合研究機構 北方建築総合研究所 牛島 健
自己処理型トイレの処理技術,その課題と展望
岡 城 孝 雄*
【要旨】 自然環境地域等において放流先が得られない場合のトイレ整備として,自己処理型トイレが環境配慮・資源循環型トイレの一つとして注目されている。
すでに山岳地,河川敷,イベント会場,工事現場等,既存のインフラに頼れない場所で実用化され,実績もあげている。一方で,過大な使用条件や維持管理面の対応不足等によって,不具合が発生している事例も少なくない。本稿では,自己処理型トイレの処理技術と特徴を整理し,これまでに適用されている設置例を紹介するとともに,その技術について実証過程で得られた評価と課題を取りまとめた。さらに,この技術は自然災害現場における被災地,避難所においても,避難所トイレの劣悪な環境から脱却するために有効な手段として注目されている。これらの技術が各所で活用されるために必要な事項を整理し,今後の展望については社会基盤として整備していくための課題を述べる。
キーワード:自己処理型トイレ,し尿処理,非放流,環境配慮,避難所トイレ
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.246-257, 2025
原稿受付 2025.2.28
* 岡城技術士事務所
連絡先:〒252-0303 神奈川県相模原市南区相模大野6-5-2
岡城技術士事務所 岡城 孝雄
座談会 「小規模分散型生活衛生インフラの国内外の動向と今後の展望」
日下部 武 敏*
【要旨】 わが国では,欧米諸国とは異なり,下水道に依存しない独自の小規模分散型生活衛生インフラが歴史的に発展してきた。近年では,人口減少によるインフラ維持管理の負担増に加え,グローバル・サニテーションの観点から非管路型技術への関心が高まり,持続可能な生活衛生インフラの重要性が一層増している。本特集では,国内外の多様な事例をもとに,小規模分散型生活衛生インフラの現状と今後の展望を多角的に論じることを目的とした。その一環として実施された座談会では,幅広い分野で活躍する6名の専門家を迎え,現状の課題や将来への可能性について活発な議論が行われた。
令和6年 (2024年) 能登半島地震を契機に,水と衛生インフラの歴史を振り返りながら,人口減少・過疎化・自然災害の頻発といった社会構造や環境の変化に伴う課題,そして過去のインフラ整備が現在にもたらす影響についても議論を深めた。議論は浄化槽にとどまらず,多様な生活衛生インフラの将来像にまで及び,多くの示唆に富む意見が交わされた。本稿が,読者とともに,これからの生活衛生インフラのあり方を考える一助となれば幸いである。
廃棄物資源循環学会誌,Vol.36, No.3, pp.258-263, 2025
原稿受付 2025.4.22
* 大阪工業大学 工学部 環境工学科
連絡先:〒535-8585 大阪市旭区大宮5-16-1
大阪工業大学 工学部 環境工学科 日下部 武敏
