No.4 放射性物質を含む廃棄物の測定分析
平成25年7月 第24巻第4号
目次
巻頭言
静脈の成長……早田輝信 225
特集 放射性物質を含む廃棄物の測定分析
放射性物質に汚染された廃棄物の処理における国の取り組み……山本昌宏 227
廃棄物関連試料の放射能分析に関する(一社)廃棄物資源循環学会の取り組み……滝上英孝・大迫政浩 239
放射能濃度等測定ガイドライン第2版の概要および改訂内容……前原裕治 248
「廃棄物等の放射能調査・測定法暫定マニュアル」について……山本貴士 253
廃棄物焼却施設における排ガス中放射性物質の測定……高岡昌輝 258
環境媒体中の放射性セシウムの存在形態と溶出特性―― 土壌・植物・水を対象として―― ……保高徹生・辻 英樹 267
廃棄物等からの放射性セシウムの溶出特性と溶出試験……肴倉宏史・石森洋行 274
廃棄物処理における放射能分析の精度管理……吉田幸弘 281
総 説
有害廃棄物等の国際的な越境移動と環境上適正な管理
―― バーゼル条約における課題と展望―― ……竹本和彦・本多俊一291
解 説
国際的な水銀管理の動向―― 水銀に関する水俣条約を中心に―― ……水谷好洋・金子元郎・田中 勝・岡かおる・阿南隆史 306
入門講座廃棄物資源循環のための理化学基礎講座2
緩衝作用と化学平衡定数の計算……渡辺信久 316
平成25 年度企画広報部会活動報告
廃棄物資源循環学会平成25年度第1回講演会―― 震災廃棄物のリサイクル―― …… 323
平成25 年度廃棄物資源循環学会研究討論会報告
総括報告…… 328
石綿含有製品・廃棄物の迅速測定法について……山本貴士 329
地震列島日本の「災害廃棄物処理計画」―― 過去から未来へ伝えるべきこと(4) 復旧・復興編―― ……井土將博 330
国際会議報告
2013 年春季・韓国廃棄物資源循環学会参加報告 332
支部特集/支部だより
関西支部の幹事の仕事 335
書評
環境アセスメント学会編:環境アセスメント学の基礎……樋口壯太郎 337
要旨
放射性物質に汚染された廃棄物の処理における国の取り組み
山 本 昌 宏*
【要 旨】 東京電力(株) 福島第一原子力発電所事故による放射能汚染という想定外の事態への対応として,放射性物質汚染対処特措法が2011(平成23)年8月に公布された。年末までにガイドライン等の策定と合わせて主要な政省令が公布され,2012(平成24)年1月に全面施行された。これにより,原子力発電所等の敷地外における放射性物質に汚染された廃棄物の処理および除染について,新しい制度の枠組みが整理され,政府の責任下で着実に実行されることとなった。
本稿では,特措法全面施行前後における東日本大震災および東京電力(株)福島第一原子力発電所事故からの復旧・復興に向けた,事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の処理における国の取り組みについての概要を紹介する。
キーワード:オフサイト,廃棄物処理,放射能汚染,東日本大震災,東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.227-238, 2013
原稿受付 2013.6.10
* 環境省大臣官房廃棄物リサイクル対策部廃棄物対策課
連絡先:〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館
環境省大臣官房廃棄物リサイクル対策部廃棄物対策課 山本 昌宏
廃棄物関連試料の放射能分析に関する(一社)廃棄物資源循環学会の取り組み
滝 上 英 孝*・大 迫 政 浩*
【要 旨】 放射性物質に汚染された廃棄物等を今後,適切に管理するためには,廃棄物等の性状やその処理処分施設における状況等を踏まえた放射能の調査・測定法の標準化が必須である。廃棄物資源循環学会では,2011(平成23)年度と2012(平成24)年度に「廃棄物関連試料の放射能分析方法に関する調査委託業務」を環境省から受託し,廃棄物・循環資源のさまざまな媒体のうち,焼却排ガス,焼却灰,汚泥,排水,その他固形廃棄物について,線量測定から放射能濃度測定,分析値の精度管理に至るまで多角的な検討を行ってきた。得られた知見をもとに,環境省の「放射能濃度等測定方法ガイドライン第2版」(2013(平成25)年3月) の改定に関与した。また,2011(平成23)年11月に作成した「廃棄物等の放射能調査・測定法暫定マニュアル」に上記ガイドラインの解説や,より先駆的な内容,調査・研究事例を参考資料として追加できるよう,検討を行っている。
キーワード:放射性物質,廃棄物,放射能測定,ガイドライン,暫定マニュアル
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.239-247, 2013
原稿受付 2013.6.26
* (独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター
連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 滝上 英孝
放射能濃度等測定ガイドライン第2版の概要および改訂内容
前 原 裕 治*
【要 旨】 放射能濃度等測定ガイドラインは,2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関し,空間線量率および放射能濃度の測定方法を定めたものである。空間線量率の測定は,ガンマ線を測定できるシンチレーション式サーベイメータにより行い,放射能濃度の測定はゲルマニウム半導体検出器,NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータ,またはLaBr3(Ce) シンチレーションスペクトロメータにより行う。これらの測定方法を理解し,精度の良い測定を行うために作成されている。今後も新たな知見が明らかとなった場合や見直しが必要と考えられた場合には,適宜改訂されることとなる。
キーワード:放射能濃度,空間線量率,ゲルマニウム半導体検出器,スペクトロメータ
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.248-252, 2013
原稿受付 2013.6.5
* 中外テクノス(株) 関東環境技術センター 技術部
連絡先:〒267-0056 千葉市緑区大野台2丁目2-16
中外テクノス(株) 関東環境技術センター 技術部 前原 裕治
「廃棄物等の放射能調査・測定法暫定マニュアル」について
山 本 貴 士*
【要 旨】 2011(平成23)年3月の福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質により,東日本各地で下水汚泥や焼却灰から高濃度の放射性物質が検出される事例が多数報告される事態となった。廃棄物処理施設の作業従事者等の被ばくを最小限に抑えつつ,円滑に処理処分を進める必要があるが,そのためには廃棄物や処理施設の放射能濃度や空間線量率を測定し,そのレベルに応じた処理処分や被ばく対策の方法を選択する必要がある。そのための測定法として,2011(平成23)年末に「廃棄物等の放射能調査・測定法暫定マニュアル」(以下,暫定マニュアル) が発行された。本稿では,暫定マニュアルについて,作成の経緯や概要,「廃棄物関係ガイドライン」との相違点,今後の改訂の方針等について述べる。
キーワード:放射性物質汚染対処特措法,事故由来放射性物質汚染廃棄物,放射能測定
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.253-257, 2013
原稿受付 2013.6.7
* (独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター
連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 山本 貴士
廃棄物焼却施設における排ガス中放射性物質の測定
高 岡 昌 輝*
【要 旨】 本稿では,放射性物質が混入した一般廃棄物や下水汚泥の焼却施設における排ガス中放射性物質の測定方法について考察した。測定方法は2つのアプローチがあり,一般廃棄物焼却施設の排ガス中金属やダイオキシン類測定に基づいた方法 (JIS K0083, JIS K0311),および発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針に基づいた方法 (JIS Z4601, JIS K Z4336) である。これら2つの試験方法と,排ガス中放射性物質のダスト粒径別挙動の調査方法 (JIS K0302) の3つの比較並行試験を行った事例を紹介した。いずれの方法でも最終煙突における排ガス中放射性セシウム濃度は検出下限濃度以下であった。比較的低濃度の混入廃棄物の焼却において,「放射能濃度等測定方法ガイドライン」に示されている方法は合理性があるといえるが,除染廃棄物等の高濃度廃棄物の焼却においては,本方法以外にも長期的なモニタリングが必要であろう。
キーワード:放射性物質,排ガス,測定方法
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.258-266, 2013
原稿受付 2013.6.14
* 京都大学大学院地球環境学堂
連絡先:〒615-8540 京都市西京区京都大学桂 C-1-3-461
京都大学大学院地球環境学堂 高岡 昌輝
環境媒体中の放射性セシウムの存在形態と溶出特性――土壌・植物・水を対象として――
保 高 徹 生*・辻 英 樹*
【要 旨】 東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により生じた放射性物質汚染に対して,本格的な除染活動がスタートした。除染活動の推進とともに,除染後に発生する膨大な汚染土壌や廃棄物の仮置場,中間貯蔵施設等の保管場所の確保や性能設計は喫緊の課題である。特に土壌や植物体中の放射性セシウムの存在形態や溶出特性は,保管・管理施設の要求性能に大きく影響を与える。また,環境水中の放射性セシウムの濃度レベルや存在形態の把握は,長期的な環境動態評価,さらに保管・管理における水環境への長期的な環境影響を把握する上で極めて重要である。本稿では,土壌,植物の2つの環境媒体中の放射性セシウムの存在形態や溶出特性に関する知見の整理,最新の試験結果を報告する。また,環境水中の放射性セシウムの濃度レベルや存在形態に関する調査結果,低濃度の水中の放射性セシウムのモニタリング方法についても概説する。
キーワード:放射性セシウム,土壌,植物,環境水,存在形態
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.267-273, 2013
原稿受付 2013.7.3
* (独)産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループ
** (独)国立環境研究所
連絡先:〒305-8567 茨城県つくば市東1-1-1
(独)産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループ 保高 徹生
廃棄物等からの放射性セシウムの溶出特性と溶出試験
肴 倉 宏 史*・石 森 洋 行**
【要 旨】 放射性セシウムを含む廃棄物等が人へ健康影響を及ぼす経路のうち,土壌や地下水への拡散の可能性は極めて重要である。そのため,放射性セシウムを含む廃棄物等に溶出試験が適用され,知見が蓄積されてきた。本稿は,これまでに筆者らが適用したさまざまな溶出試験の結果をもとに,廃棄物等からの放射性セシウムの溶出特性をとりまとめたものである。
キーワード:焼却灰,放射性セシウム,有姿撹拌試験,逐次抽出試験,存在形態
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.274-280, 201
原稿受付 2013.6.29
* (独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター
** 立命館大学 理学部 環境システム工学科
連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 肴倉 宏史
廃棄物処理における放射能分析の精度管理
吉 田 幸 弘*
【要 旨】 廃棄物処理における放射性セシウムの放射能測定の精度管理を中心に記述した。精度管理においては,適用する方法が妥当であるか,妥当な方法による測定について実際に試験所がそのとおり実施できるか,実施できた試験の品質が継続的に確保できているかが大切である。そのためには手順の標準化と手順書の整備,施設の維持管理,装置の適正なメンテナンスと校正,要員の適格性の確保や,不備が発生した場合の対処を行うことを規定する必要がある。適正な結果報告がなされているかは濃度既知試料の分析,認証標準物質の分析,試験所間のクロスチェック等によって評価する。さらに方法における不確かさの要因について調査すると,より合理的な精度管理を行うことができる。表面汚染の測定,空間線量率の測定についての留意点についても簡単に触れた。
キーワード:廃棄物,放射能分析,精度管理,空間線量率,表面汚染
廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, pp.281-290, 2013
原稿受付 2013.6.15
* (株)環境管理センター プロジェクト推進部
連絡先:〒192-0154 東京都八王子市下恩方町323-1
(株)環境管理センター プロジェクト推進部 吉田 幸弘