No.5 プラスチックの持続可能な原料確保に向けたポテンシャル
令和6年9月 第35巻 第5号
目次
巻頭言
災害廃棄物と最終処分場……若林 秀樹 309
特集 プラスチックの持続可能な原料確保に向けたポテンシャル
酵素処理技術を使ったバイオマスからの多様なプラスチック原料生産プロセス……五十嵐圭日子 311
持続可能なプラスチック製造に向けた三菱ケミカルの取り組み……根本 耕司・佐野 浩・神田 三奈・高野 純一 318
触媒分解によるポリオレフィン系プラスチックの化学原料化……田村 正純 325
アクリル樹脂(Poly-Methyl-Methacrylate)のリサイクルプロジェクト……和氣 孝雄・小山 浩士・山﨑 和広 331
使用済みポリスチレンのケミカルリサイクル……駒田 悟 341
サーカムスタンス適応型資源循環に向けた廃プラスチックの回収およびリサイクル可能性……中谷 隼・大野 肇・齋藤 優子・吉岡 敏明 349
令和6年度廃棄物資源循環学会セミナー報告
資源循環の物理化学セミナー 「ガス吸収と化学平衡」……渡辺 信久 362
支部特集/支部だより
支部だより:令和5年度 廃棄物資源循環学会 北海道支部 見学会・研究発表会…… 364
書評
レイチェル・カーソン,森田真生 著:センス・オブ・ワンダー……釜田 陽介 365
野中郁次郎 編著:日本型開発協力とソーシャルイノベーション ── 知識創造が世界を変える ──……石井 明男 366
要旨
酵素処理技術を使ったバイオマスからの多様なプラスチック原料生産プロセス
五十嵐 圭日子*
【要旨】 現在,バイオマスからのプラスチック製造のほとんどは,抽出した油脂成分や糖成分をそのまま利用するか,構成する糖成分を単糖類に分解し,モノマーに変換し,重合してプラスチックを得ている。前者の場合,食料との競合になることが多く,後者の場合,変換プロセスは経済的にもエネルギー的にも非効率である。そこで本研究では,バイオマスの組織構造や分子量に応じたカスケード利用を可能にする技術開発を目指す。すなわち,未利用バイオマスを酵素等で変換する際に,酵素処理の程度によって繊維として残りやすい部分,化学的に分解しにくい成分は多糖類やオリゴ糖として,分解されやすい部分は単糖類として利用する「バイオマスフラクショネーション技術」の開発を目指している。
キーワード:バイオリファイナリー,セルロース加水分解,バイオマスフラクショネーション
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.311-317, 2024
原稿受付 2024.7.31
* 東京大学 大学院農学生命科学研究科
連絡先:〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1
東京大学 大学院農学生命科学研究科 五十嵐 圭日子
持続可能なプラスチック製造に向けた三菱ケミカルの取り組み
根 本 耕 司*・佐 野 浩*・神 田 三 奈*・高 野 純 一*
【要 旨】 2021年6月にはプラスチックに係る資源循環の促進に関する法律(プラスチック資源循環促進法)が公布(2022年4月施行)され,製品の設計から廃棄物の処理まで,プラスチック素材/製品の商流すべてにおける資源の循環等の取り組みを促進する仕組みができた。2024年5月には資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(再資源化事業高度化法)が参院本会議で可決,成立し,プラスチック素材/製品の製造・販売事業者において,自社の素材/製品へ再生材を活用する取り組みが期待されることとなった。欧州を中心に,自動車等への再生材の利用を義務付ける動きが拡大するなか,上述した二つの法律を含めた第五次循環型社会形成推進基本計画の策定に向けた議論が進んでいる。同計画においては初めて循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が明記され,カーボンニュートラルの実現とあわせて,産業競争力の強化に向け,素材ごとの方向性や数値目標が示される見込みである。いずれの目標も,プラスチック素材/製品の製造事業者単独の取り組みでは困難である。本稿では,再生材の利用促進も視野に入れた,持続可能なプラスチック製造に向けた三菱ケミカルの取り組みについて紹介する。
キーワード:資源循環,サーキュラーエコノミー,カーボンニュートラル,ケミカルリサイクル,企業間連携
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.318-324, 2024
原稿受付 2024.8.5
* 三菱ケミカルグループ㈱ ビジネス・サステナビリティ部
連絡先:〒100-8251 東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスビル
三菱ケミカルグループ㈱ ビジネス・サステナビリティ部 根本 耕司
触媒分解によるポリオレフィン系プラスチックの化学原料化
田 村 正 純*
【要 旨】 近年プラスチックごみの問題が深刻になり,プラスチックのリサイクル技術の開発は急務である。プラスチックのリサイクル技術として,サーマルリサイクル,マテリアルリサイクルが大部分を占めるが,炭素循環を考えた場合,ケミカルリサイクルは必要不可欠の技術であり,また,二酸化炭素削減やエネルギー削減の観点からも十分なポテンシャルを有すると期待される。特に,プラスチックの大部分を占める炭化水素系プラスチック(ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル, スチレン系樹脂)のケミカルリサイクル技術の開発が必要不可欠である。そこで,本稿では,プラスチックのケミカルリサイクルの現状と,近年注目を集めている触媒を用いたポリオレフィン系プラスチックの水素化分解技術の研究動向について概説し,さらに,最新の技術としてわれわれの固体触媒技術について説明する。
キーワード:ポリオレフィン系プラスチック,ケミカルリサイクル,水素化分解,固体触媒,化学品
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.325-330, 2024
原稿受付 2024.8.5
* 大阪公立大学大学院 工学研究科
連絡先:〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本3-3-138
大阪公立大学大学院 工学研究科 田村 正純
アクリル樹脂(Poly-Methyl-Methacrylate)のリサイクルプロジェクト
和 氣 孝 雄*・小 山 浩 士**・山 﨑 和 広***
【要 旨】 プラスチックの大量生産・大量消費・大量廃棄は,気候変動や資源枯渇の問題を深刻化させている。2015年には,全世界でのプラスチック生産量が年間約4億tに達し,その廃棄量も年間約3億tにのぼった。先進国では「物質的な豊かさ」への欲求が高まりつづけ,また新興国では人口増加と経済成長により,プラスチックの消費活動がますます拡大し,廃棄物の増加が予想されている。住友化学は,さまざまな環境負荷低減技術の開発を通じて,二酸化炭素排出量の削減や化石資源の使用量抑制,資源循環等,持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。特にアクリル樹脂 (PMMA) では,高い収率でMMAモノマーが得られる分解特性を活かしたケミカルリサイクルに注力している。二軸押出機を用いた高効率熱分解プロセスを㈱日本製鋼所と共同で開発し,早期の社会実装を目指している。この技術により,従来のPMMAと同等の品質を保ちながら,二酸化炭素排出量を大幅に削減できる見込みである。さらに,住友化学は地方自治体との地域内資源循環プロジェクトや,ブランドオーナーとの共同取組を通じて,リサイクルを推進し,持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めている。
キーワード:資源循環,カーボンニュートラル,リサイクル,アクリル樹脂
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.331-340, 2024
原稿受付 2024.8.9
* 住友化学㈱ MMA事業部 (現:炭素資源循環事業化推進室),** 住友化学㈱ エッセンシャルケミカルズ研究所 (現:エッセンシャル&グリーンマテリアルズ研究所),*** 住友化学㈱ エッセンシャルケミカルズ研究所 (現:MMA事業部)
連絡先:〒103-6020 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー
住友化学㈱ 炭素資源循環事業化推進室 和氣 孝雄
使用済みポリスチレンのケミカルリサイクル
駒 田 悟*
【要 旨】 プラスチックは生活に不可欠な素材ではあるが,廃プラスチック問題,気候変動問題等を受け,リサイクル等の環境対応への取り組みが,今後より一層求められると考えられる。ポリスチレンは,乳酸菌飲料容器,食品トレーや包装容器等に広く用いられている。魚箱や食品発泡容器等の一部はメカニカル(マテリアル)リサイクルされており,リサイクルが進んだ樹脂の一つといえる。それでも大半が1wayで使用され,エネルギー回収目的に焼却処理されている。温室効果ガス削減のためにも循環型リサイクルが望まれる。これらを受け,当社でも環境対応技術,循環型リサイクル技術を開発中である。本稿では,モノマー化ケミカルリサイクル技術全般の紹介を中心に,環境対応技術への取り組み(メカニカルリサイクル,バイオマスナフサ由来のポリスチレン,植物由来添加剤ポリスチレン)についても紹介する。
キーワード:ポリスチレン,ポリスチレンリサイクル,モノマー化ケミカルリサイクル
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.341-348, 2024
原稿受付 2024.7.30
* PSジャパン ㈱ 研究開発部
連絡先:〒210-0863 神奈川県川崎市川崎区夜行1-3-1
PSジャパン ㈱ 研究開発部 駒田 悟
サーカムスタンス適応型資源循環に向けた廃プラスチックの回収およびリサイクル可能性
中 谷 隼*・大 野 肇**・齋 藤 優 子***・吉 岡 敏 明**
【要 旨】 近年,プラスチック問題に対しては,海洋流出を含むプラスチック汚染への対応とリサイクル率の向上に加え,再生プラスチックの含有率を政策的に規定する動きが進んでいる。そのため,廃プラスチックを適正処理するだけではなく,地域固有の条件を活用して廃プラスチックを有効利用するサーカムスタンス適応型の資源循環の視点が求められる。本稿では,以上のような社会的要請に応えるための研究事例として,物質フロー分析によるプラスチック利用量の分析結果をもとに市区町村ごとの廃プラスチックの発生量をトップダウン的に推計した事例,容器包装プラスチックの光学選別の精度を実証してマテリアルリサイクルによる再生プラスチックの供給可能性を分析した事例,製油所を拠点としたサーカムスタンス適応型のケミカルリサイクルのシナリオを評価した事例,全国の市区町村における製品プラスチックの回収の実態と仙台市における回収物の組成を調査した事例を紹介する。
キーワード:容器包装プラスチック,製品プラスチック,光学選別,ケミカルリサイクル,物質フロー分析
廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.5, pp.349-361, 2024
原稿受付 2024.8.9
* 東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻,** 東北大学大学院 環境科学研究科 先端環境創成学専攻,*** 東北大学大学院 環境科学研究科 先進社会環境学専攻
連絡先:〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院 工学系研究科 中谷 隼