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No.4 化学物質のどこに着目するかー難分解性・移動性の環境脅威ー
 

No.4 化学物質のどこに着目するかー難分解性・移動性の環境脅威ー

令和6年7月 第35巻 第4号

目次

巻頭言

産業資源循環の推進とその実現にあたっての課題……室石 泰弘 239

特集 化学物質のどこに着目するか ―難分解性・移動性の環境脅威―

毒性を迂回して環境汚染化学物質の環境的性質に着目する……渡辺 信久 241

化学物質曝露の健康影響を調査する ――子どもの健康と環境に関する全国調査――……磯部 友彦 248

有害物質の毒性の証拠はどのように集められてきたのか ――PFASを例として――……原田 浩二・藤井由希子 256

化学物質の移動性とPMT物質……遠藤 智司 265

PFASの吸着と分解に関する技術開発……大山  将・平尾 壽啓 271

有機フッ素化合物の再資源化の取り組み……冨田 真裕・松岡 康彦 281

令和6年度廃棄物資源循環学会・春の研究討論会

総括報告…… 287
企画セミナー報告…… 289

会議報告

韓国廃棄物学会2024年春の年会……河井 紘輔・劉  俊榮 295

環境省・廃棄物資源循環学会共催シンポジウム報告

資源循環分野における脱炭素・循環経済に係るシンポジウム ――令和5年度シンポジウム――……毛利 紫乃 297

支部特集/支部だより

支部だより:九州支部の2023年度活動報告・2024年度総会報告…… 301
支部だより:令和5年度 廃棄物資源循環学会関西支部技術セミナー・施設見学会報告…… 303

書評

PwC Japanグループ 監修 日本経済新聞出版 編:ネイチャーポジティブ経営の実践 ――次なるサステナビリティ課題「生物多様性」とは――……藤井  実 305
田中治彦 著:新SDGs論 ――現状・歴史そして未来をとらえる――……森  朋子 306

要旨

毒性を迂回して環境汚染化学物質の環境的性質に着目する

渡 辺 信 久*

【要旨】 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)と残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)のいずれも,毒性を有する化学物質による環境汚染を防ぐ目的でありながら,難分解性・蓄積性・移動性等の環境的性質から調べ,規制対象リストに組みこむ(化学物質に札(ふだ)をかける)スキームとなっている。最初に難分解性を第一義に取りあげたのは化審法であり,POPs条約は2種類の移動性(半揮発性物質の寒冷極地への濃縮,水溶性・揮発性による生物摂取可能性の上昇)の重要性を示している。これら環境的性質に着目し,毒性を迂回する理由は,「毒性が難しい」ためである。疫学データ(例: ベンゼン)が最も明確な毒性の根拠であるが,それは,長い年月にわたった多数の被害に基づくものであり,繰り返すことは容認されるものではない。近年は,生命科学的手法による根拠も採用されるようになってきたが,やはりそれらを補完し,予防的意味もあることから,環境的性質によって「化学物質に札(ふだ)をかける」ことは,今後も必要である。さらに複雑なことに,札をかけられた化学物質の使用の可否は,毒性だけではなく,リスク・ベネフィットによって判断(例: DDTと水銀)されることがある。また,毒性が明らかになっていても,長く受容されている例(ひ素)もある。最後に,本稿においては社会問題化しているPFAS問題への望ましい姿勢を述べた。


キーワード:化審法,POPs条約,疫学調査,ひ素,PFAS

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.241-247, 2024
原稿受付 2024.6.5

* 大阪工業大学 工学部 環境工学科

連絡先:〒535-8585 大阪市旭区大宮5-16-1
大阪工業大学 工学部 環境工学科  渡辺 信久

化学物質曝露の健康影響を調査する──子どもの健康と環境に関する全国調査──

磯 部 友 彦*

【要 旨】 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は環境省主導で実施されている出生コホート研究であり,全国の約10万組の親子を対象として2011年から長期間にわたって子どもの健康とそれにかかわる環境要因の関連解析を目的とした追跡調査を実施している。エコチル調査では,主に胎児期や小児期の化学物質曝露が子どもの成長や発達にどのように影響するか解明することを目的に,生体試料濃度を曝露の指標として健康アウトカムとの関連を解析しており,生体試料の採取数等の点で世界的にも最大規模の出生コホート研究の一つとなっている。本発表では,エコチル調査について,研究デザインと進捗状況,これまでに得られた結果の一部について紹介する。


キーワード:エコチル調査,出生コホート研究,曝露評価,エクスポソーム

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.248-255, 2024
原稿受付 2024.6.10

* (国研) 国立環境研究所 環境リスク・健康領域 エコチル調査コアセンター

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研) 国立環境研究所 環境リスク・健康領域 エコチル調査コアセンター  磯部 友彦

有害物質の毒性の証拠はどのように集められてきたのか──PFASを例として──

原 田 浩 二*・藤 井 由希子**

【要 旨】 有機ふっ素化合物のうち,結合するふっ素が多い,ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物,per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS)は20世紀半ばから,生活用品の撥水剤,工業製品,燃料火災用の泡消火剤,ふっ素樹脂の製造助剤等として幅広く利用されてきた。ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)の2物質が代表的なPFASであった。これらは環境中で分解せず,生物に蓄積することから将来的なリスクが懸念された。過去に使用されたPFASが環境に残留し,水道水等の汚染を引き起こし,住民のPFAS曝露につながっている。昨年,米国や欧州では水道水濃度や血中濃度についての勧告が相次いで公表されている。その示された水道水中PFASの勧告値のいくつかは現在の日本においても達成できないほど厳しい。それらの根拠となった知見について解説する。。


キーワード:PFAS,健康リスク,動物実験,疫学研究,ヒト生物モニタリング

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.256-264, 2024
原稿受付 2024.6.17

* 京都大学 大学院医学研究科 環境衛生学分野,** 第一薬科大学 薬学部 健康・環境衛生学講座

連絡先:〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町 
京都大学 大学院医学研究科 環境衛生学分野  原田 浩二

化学物質の移動性とPMT物質

遠 藤 智 司*

【要 旨】 欧州ではPersistent(難分解性),Mobile(移動性),Toxic(毒性)物質(PMT物質)の規制に向けた取り組みが進められている。新たにハザード評価項目として導入されるのはM,すなわち移動性である。本稿では,移動性とは何か,移動性が注目されるに至った背景,移動性の基準値や化学物質規制全体への意味について議論する。PMT物質が水源汚染のポテンシャルをもつことから,将来にわたって安全な飲料水を確保するための対応を検討する必要があると考える。


キーワード:難分解性,残留性,毒性,水質汚染,vPvM

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.265-270, 2024
原稿受付 2024.6.10

* (国研) 国立環境研究所 環境リスク・健康領域

連絡先:〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
(国研) 国立環境研究所 環境リスク・健康領域  遠藤 智司

PFASの吸着と分解に関する技術開発

大 山   将*・平 尾 壽 啓*

【要 旨】 近年,ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)による環境中への拡散が懸念され,国内においても河川,地下水等からPFOS,PFOAおよびPFHxSが幅広く検出されている状況にある。河川・地下水等に拡散したPFASの除去技術として,比較的低コストで取り扱いが容易な粉末活性炭による吸着処理を検討した。実際の河川水を用いた吸着試験では,PFOSのような比較的炭素数の多いPFASが吸着除去し易いことが判明した。また,pHを酸性雰囲気に調整して吸着処理することで,短鎖を含むPFASの吸着量が増大することを見出した。


キーワード:PFAS,粉末活性炭,吸着処理,水素燃焼式高温過熱水蒸気,分解処理

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.271-280, 2024
原稿受付 2024.5.21

* ㈱鴻池組 技術研究所 大阪テクノセンター

連絡先:〒559-0034 大阪府大阪市住之江区南港北1-19-37
㈱鴻池組 技術研究所 大阪テクノセンター  大山 将   

有機フッ素化合物の再資源化の取り組み

冨 田 真 裕*・松 岡 康 彦*

【要 旨】 ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は10,000種を超える有機フッ素化合物の総称で,その中のペルフルオロオクタン酸(PFOA),ペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFOS),ペルフルオロヘキサンスルホン酸 (PFHxS) は,難分解性,高蓄積性,長距離移動性およびヒトや生物への有害性が懸念され,残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約) で規制されている。近年,欧州ではPFASの難分解性や生物蓄積性,移動性への懸念から,すべてのPFASを一括で規制する提案がなされている。しかし,FCJ(日本フルオロケミカルプロダクト協議会)は,PFAS全体を有害物質として規制するのは科学的根拠に欠けるとし,個々の物質や代表的な物質群ごとにリスクを定量的に評価すべきと主張している。またPOPs条約で規制される物質を「特定PFAS」と定義し,その他のPFASと区別することを提案している。FCJの参画企業はフッ素化学品を製造しており,その事業活動における環境負荷の最小化と,製品を通じた環境影響の抑制に努めている。今回,その一例としてPFASリサイクルの取り組みを紹介する。


キーワード:PFAS,有機フッ素化合物,リサイクル,排出削減,日本フルオロケミカルプロダクト協議会

廃棄物資源循環学会誌,Vol.35, No.4, pp.281-286, 2024
原稿受付 2024.5.31

* 日本フルオロケミカルプロダクト協議会

連絡先:日本フルオロケミカルプロダクト協議会  冨田 真裕

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